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王宮の闇①


 リンドが魔法の習得を

 条件付きではあるものの許可を受けてから一週間が経った。


 この日もリンドはカリナに午前中みっちりと

 王国の地理学を教え込まれ、

 随分と参っていた。


「ドレイク家は6大諸侯で最も大きな領地を持ち……当主は賢人会の議長も務め……ます。」



 机に向かったリンドの隣で椅子に腰掛け

 頷きながら耳を傾けていたカリナが尋ねる


「当主の御名前は?」


 リンドが固まる


 激しく頭を回転させ

 記憶を辿る


「ハンフリー……です」


 なんとか絞り出した答えは

 何処かで聞いた覚えのある名前であったが


「それはウィンディア家当主のお名前です。」


 カリナは淡々と訂正し

 続けて言う


「ドレイク家のご当主はジャスパー・ドレイク公に御座います」


「ジャスパー・ドレイク公は現王妃の父に当たり北の国境を任せられる最も古い家の1つです。」


 ハッとしたリンドが

 頭を抱えて机に屈み込む



ーー全然わかんねぇ〜



 リンドが家々に疎いのにも理由がある

 

 リンドは王子の一人ではあるものの

 父である国王に距離を置かれ、実の兄にも嫌われており


 又、継母にあたる現王妃の弟と妹もいるが

 現王妃からすれば前妻との子であるリンドにあまり近づけたくないと思われていて


 あまり公の場に姿を出す機会がなく

 有力諸侯と合わすことも無く今までを生きてきたからである。


 

 つまり

 顔と名前が一致しないのだ




 とここで見かねたカリナが助け舟を出す


「あまり根を詰めても仕方ありませんな……良い時間です」



 そう言い太陽の位置を見たカリナは立ち上がり

 リンドの部屋を出ていこうとする


「良いですよ殿下、解放して差し上げますルース殿によろしくお伝え下さい」


 そう言い部屋を後にした


 カリナが行った事を確認したリンドは

 直ぐに稽古の支度をし部屋を出る


「殿下お食事はどうされますか?」


 と直ぐに声をかけられる


 

 この離れでリンドの食事の世話などを行っている

 使用人のフラウだ


 フラウは王都に住まう平民の出で

 両親はパン屋を営んでおり裕福とは言えないまでも大切に育てられたのであろう


 髪は茶髪で後ろで綺麗に束ねられております

 常に笑顔で、少しそばかすがあるものの

 そこがチャームポイントになり

 愛らしさが溢れている。


 少なくともリンドの目にはそう映っていた。


「後で食べるよ!」


 食事を後回しにしてでも

 早く魔法の稽古がしたい


 そう思いリンドは裏庭目掛けて走っていく


「殿下!稽古が終わりましたら明日の事についてお話がありますお時間開けて於いて下さい」



 フラウの言葉を背に受け

 手を挙げて返事の代わりにしてリンドは走る

 











 数時間後


 稽古を終え

 疲れ果て座り込んだリンドが

 ルース・セリオンと話しをしている


「師匠、『会鳴烈身流』の次の魔法も教えてよ」


 魔法の流派には5〜10の技があり

 内魔法に於いては一段階目は基本的に『ストレングス』であるが

 それ以降の技にはそれぞれの特色がある


「俺もう『ストレングス』は良い感じだと思うんだけど」


 リンドがルースを見上げながら言う

 

 ルースは



「確かに思っていたより筋が良いです。」



 しかしとは言われましても。と前置きをし


「私は『会鳴烈身流』を修めてはいませんから」


 確かに、ルースは以前リンドとの会話で

 『会鳴烈身流』を古い流派と呼んだ、

 その時の事をリンドは思い出す。



「えぇ……じゃあ俺この後どうすればいいの?」



 困り果てた声を出し

 ルースに助けを求めるように言う



「昔、私がまだ20代そこそこの時、一度だけ使い手とやり合った事があります」


 

 リンドが飛び上がる


「それでそれで?」


 少し笑顔を見せた後

 ルースが再び語り始める


「1つ印象に残っている技があります、名を『烈身』恐らく奥義にあたるものだとは思いますが……」


 うんうんとリンドは頷きながら傾聴する


「それは全身からマナを逆噴射し触れるもの皆切り刻む恐ろしい技です」



 素直に聞いていたリンドが首を傾げる

 

 内魔法は

 マナを内側に吸い込む事に特化しており、

 それを逆噴射するとはどういう事なのかと


「そうです殿下、この技の恐ろしさは内魔法使いへの負担のでかさにもあります。先を恐れず目の前の敵を必ず殺すという心が必要となります。」


 つまりですね……と言い


「私が何を言いたいか分かりますか?」


 リンドは

 察する


「まだ早いってことですか……」



 その通りとルースは笑い

 落ち込むリンドの頭に手を置く



「しかし、ホウジョウ家であればもしかしたら文献が残っているやもしれませんな」

 

 

 ルースのこの後の話によると

 ホウジョウ家は倒した流派の詳細なデータを

 建国以来つけ続けているそうな




「奥義に手を出さないという条件であれば当たってみますが?」

 

 

 落ち込んでいたリンドの気持ちは晴れ

 頭に乗ったルースの手を取り

 無理矢理握手をする


「誓う!誓います」


「だからこの通り!なんだったらホウジョウ家の当主にも会ってみたい!」



 ジッとルースの目を見てリンドが頼み込む

 リンドはこの家の名前に並々ならぬ関心を持っていた



ーー俺の前世の北条家となにか関わりがあるのかも



 カリナの授業でその名前を聞いて以来

 ずっと気になってはいたものの

 相手は王に次ぐ6大諸侯の一角、

 そう簡単に顔を合わせることも出来ない


 だからこそルースのこの提案は渡りに船だった。



 しかし



「『剣神』殿にですか?……それは無理でしょう」



 あっさり断られてしまう


「あの方は、陛下の命にしか従いません」



 ルースは補足する


 剣の一族ことホウジョウ家は王家と並ぶ最古の家であり家訓は『王のみ振るえる刃』

 その家訓通りこれまで王の命令だけを聞き

 古くから続く6大諸侯の勢力争いにすら参加してこなかった。


 そして何より、

 最強のものが『剣神』の名と当主を継ぐという

 独自のルールがある事で有名なのだと



「私があたるのは、現当主エダード・ホウジョウ様の叔父にあたるリカード・ホウジョウ」


「うちの団長です。」



 リカード・ホウジョウは

 キャッスルガードの団長でルースは副団長



「まあ仕方ないよね……」



 リンドは落ち込みながらも

 次のステップに進める事には喜んでいた。


 

 するとそこへ

 先程のフラウが離れから声をあげ歩いてくる


「殿下〜!」


 大きなバスケットを持ったフラウは小走りになり

 小柄な体には大きすぎるバスケットを右へ左へと揺らす


 

「全然お戻りになられないので昼食をお持ちしました。」

 


 そう言いながら

 バスケットを芝生の上へ下ろすと、

 かかっていた布を取る


 そこには大量のサンドウィッチが入っており


「皆さんの分もありますのでどうぞ!」


 と言い

 訓練をしていたキャッスルガードの連中に声を掛ける。



「おお!ではお言葉に甘えて」



 そう言い、

 最初にルースが一切れ取り上げ一口で食べる



ーー王子の俺より先に食べるのかよ



 心の中でリンドはそうツッコんだが

 実のところルースの物怖じせず豪胆な態度は嫌いではない


 リンド自信

 前世の価値観もあるせいか

 畏まった態度を取られるのはあまり好きではなく

 

 カリナやルース、フラウの様に

 物怖じせず対応されたほうが居心地は良いと感じていた。



「副団長ばっかずるいっすよ!」


「俺も俺も」


 とぞろぞろキャッスルガードが集まってき

 次々とサンドウィッチを取り上げてゆく


「ちょ!俺の分!」


 リンドは慌てて一切れを取り

 なんとか昼食にありつく


 




 

 そして

 皆が食べ終え休憩をし始めた頃


 リンドはある事を思い出し

 フラウに尋ねる


「そういえば明日の事で話って?」



 ああその事ですが。と前置きをし



「私、明日明後日の2日お休みを頂きますので、お食事のご用意ができません」

 


「なのでお食事は陛下達王族の席で召し上がられるか……」


 

 そこまで言うと

 リンドにも察しがつく


「俺は王宮の食堂で食べるよ」



ーー俺がいると父上も良い気はしないだろうしな



 リンドは父に避けられていることを察しており

 自身も気遣いから父を避けている




ーー俺が本当に子供でもっと素直に甘えられたらちょっとは違ったのかもな


 

 

リンドの心にはいつもその考えがあり

 自分が本当の子供ではなく、偽物であり

 本当の子供既に母と共に死んでいるのではないか

 という思いから踏み出せずにいた。


 

 少しナイーブになっているリンドをよそに

 新人のキャッスルガード団員がフラウに話し掛ける。



「2日も空けるって、フラウちゃん結婚でもするも?」

 


「私じゃなくてお姉ちゃんがね」


 フラウが答え、

 その言葉を聞き

 新人の団員は軽いノリで言う



「相手がいないなら俺とかどう?王宮勤めで安定してるぜ?」


 

 団員達から笑いが起こる

 お前じゃ無理だと声も上がる

 するとやはり


「そうですねぇ兵士の方は亡くなられる事も多いですから」



 フラウはやんわりと返し

 さらに笑いは大きくなる


 リンドも釣られて笑う


「王宮勤めだしそうそう死なないって!」


 と新人は必死の抵抗をするが

 先輩団員に背中を叩かれ


「たんにお前じゃ嫌ってことだよ!」


 と言われている



 皆で笑い

 楽しい時間を過ごす



 その後

 夜になると身支度をし

 離れを出るフラウに



「気を付けて」



 とリンドは言い別れた。







 しかし



 その後フラウは帰ってこなかった。






 

 

 








 



 



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