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剣と魔法②

 周りで稽古していたキャッスルガードの面々が、

 向かい合った2人の動向を伺う

 次第にそれは円になり取り囲むような形になっていく


 円の中心にいる

リンド・ヴァルハルトとルース・セリオンは動かず

 互いを一直線に見つめ続けていた。



恐らく一瞬で勝負はつくな……



 そう思っていたのはリンドであり


 基本的に体格で有利なルース相手には長期戦では不利になり、

 また内魔法の技術に於いても、まともな教育を受けていないリンドは、

 数秒『ストレングス』を発動するのが限度であるという理由からだ


 

なら小柄な体型を活かす!



 リンドがマナを貯め、

 『ストレングス』を足に集中させつつ右脇構えを取る

 これは『会鳴烈身流』の基本的な戦術でありリンドが意図的にやったものではなかった



しかし



「ほう……一瞬でケリを付けに来ましたか」



 数多くの敵と打ち合ったルースには直ぐに見抜いてしまい

 ルースは上段の構えで迎え撃つ体勢を取る


 

 この時、

 リンドは心の中で思う



上段に構えた……なら狙うは一点!



 覚悟と戦法を整え、

 姿勢を前に倒し左手を地につける。


 姿勢はさらに小さくなり

 構えは右脇構えの流れから木剣を後ろに伸ばす形で落ち着く

 

 

「いきます……」


 ルースの目を見て

 リンドが静かに囁く


 そして

 

 地につけた左手を握り

 

 リンドが飛び出す



 前に進む体に反して

 拳を握った左手を後ろに置いていき


 その遅れた左手を

 一刀一足の少し手前で全力で前に振り抜く



 振られた左の手から


 

 小粒な石が飛び出し

 ルースの左目めがけて飛んでいく


「っち!」


 思わずルースが左目を少し閉じ

 顔を少し背ける。



このままいく!!


 

 リンドは勢いそのまま走る

 すでに一刀一足の間合いのうち


 そこでリンドは足を前に投げだし

 スライディングの姿勢でルースの股下を滑り抜ける



ここだっ!!


 

 ルースの股下を抜ける際に

 滑る勢いに任せ、

 後ろに伸ばした右手の木剣でルースの左足内ふくらはぎを切りつける。


 股下を抜け、

 ルースの背後に回り

 流れるように起き上がったリンドが一瞬考える。



一撃に入るか?


 

 だが、

 浮かれた考えは一瞬で消し飛ぶ


 ルースが体を左に回す力を使い

 大型の木剣を今、

 リンドに向け振ろうとし始める。



急所じゃないし一撃に数えてはくれないかっ!


 

 もう一度『ストレングス』を発動し、

 こちらを向き切る前のルースの首元目掛け

 木剣の切っ先を向け飛び込んだ

 


いける!!



 しかし、

 リンドの考えとは裏腹に



 ゴォン!!


 リンドはの体が吹き飛ばされる

 

 吹き飛んだ体を周りで見ていた『キャッスルガード』の数人が

 受け止めてくれ少し衝撃が和らぐ


 だが、

 リンドは一瞬何が起こったのか分からずにいた

 

 しかし左半身が酷く痛むことに気が付き




あそこからあんな巨大な木剣を振って来たのか……

 


 それを理解したリンドに

 激しい痛みが襲ってくる


 『キャッスルガード』に地面に下され

 立ち上がろうとするが左腕から左わき腹が痛み立ち上がれない




……そうかルースは多分



 

 痛みの中考えをまとめようとしたリンドに



「剣士の打ち合いの際、相手も『ストレングス』を使うことを想定しなさい」


 ルースが言う

 

 そう

 なんてことない、

 ルースも『ストレングス』を使用したのだ



「使用したのは『リシャール流』ですか……?」


 

 『リシャール流』はこの国ヴァルハイト王国の内魔法2大剣術流派の一つで

 長剣を使う王国騎兵などの貴族出身の騎士などに多い流派であり

 

 攻守のバランスにすぐれ

 長く戦い続ける為のものである



「そうです殿下」


続けて話す


「本来素早さで勝る『会鳴烈身流』で何故、バランス重視の『リシャール流』に後出しで負けたか分かりますか?」



 痛みの中、

 自分なりに考えを纏めてリンドが答える


「まずは内魔法の精度ですか?」


やはり内魔法の出力が足りていなかった

もう少し速く、首元に切っ先が届いていたら……


 リンドはそう考えた

 

 しかし


「違います、殿下に一番足りていなかったのは判断力です」


っ!!


「何故、致命傷を与えられていないと分かった時に引かなかったのです?」


「勝手に隙があると判断し先走ってしまったのは何故です?」


 

 的を射た質問にリンドは固まってしまう


 本来、持続力も精度も足りていないリンドは

 正面からの奇襲を失敗した時点で一度体制を整えるのが正解だった

 

 だが引けない理由があった

 それは負けを認めることになると思ったからだ



負けると魔法を教わる機会を逃してしまう……


 

 その重圧がリンドに勝ちを急がせてしまった。



「負けると次がないと思ったからでしょう」


「そうです、戦場では敵も味方もそうなんです」


 

 ルースの言葉の重みでこの世界は

 限りなく残酷な世界であると思い出す


 

 カリナから教育の一環としてリンドは聞かされていた、


 先月北方のドレイク領国境で北の国ノルヴァの越境行為があり

 小競り合いでこの国だけで422人が死んだ


 又その数日前にはエリス領所有のの貿易船が襲われ乗組員が42名

 荒れる海に捨てられ全員が死んだ


 つい先日にも、国王の政策により職にあぶれた元兵士が

 野党になり王都郊外のセリオン領との境にある村を襲い

 村人136人が殺された、それに伴い野党討伐に出たセリオン領兵士により

 野党の28人も死亡



この世界は人が死にすぎる



 恐らくルースは50そこそこの年まで生き

 そんな惨状を繰り返し見てきたのであろう

 

 だからこそリンドにはとても重い言葉に聞こえた



「ごめんなさい」



 この世界に転生する前は30歳で

 転生して十数年生きてきたリンドが子供の様にあやまってしまう



軽く考えていたのか……



 剣を取り魔法を使うとき、

 それは恐らく相手もリンドに剣を向け魔法を放つ時


 そう考えるとリンドは怖くて堪らなくなってしまったのだ



この世界では転生時のチートも、絶対的に俺に尽くす理想の仲間もいない……



 つまり、

 戦う強さも人脈も、すべて自分で築いていかないといけないのだ

 


 俯き傷心に暮れるリンドに声が掛かる


「だけどまあ……あの奇襲は良かったですよ!」


 リンドが顔を上げルースを見る


「股下への攻撃も自分の手札をは理解しての良い判断でした」


 

 ルースは気恥ずかしそうに

 鼻頭をかいているいる



「だけど師匠……一撃を入れないと破門だって」


 

 リンドの言葉にルースは悪い顔をし


「『会鳴烈身流』では、そうだと言ったんですよ」



 キョトンとした顔でルースを見続ける

 口は開いたまま塞がっておらず

 その驚きは、痛みを一時忘れる程であった。



「副団長大人げないですよ!」


「はっきり才能あるから教えるって言えばいいじゃないですか!!」


「そうだそうだ!!」


 

 『キャッスルガード』の面々がそれぞれに声を上げだす

 リンドは少なくとも自分に才能があると言われ嬉しく思いつつも

 ルースの反応が気になりじっと見つめる


 すると


「まぁ当て感みたいなものはありますし、変に損耗の激しい『会鳴烈身流』を独学でやるよりは私が監督する方がいいでしょうね」



これって……もしかして



「それって今後も内魔法の鍛錬を続けていいってことですか?」



 期待した答えを得られるかもと

 リンドが少し期待を膨らませながら返答を待つ



「いいでしょう!カリナ殿には私から伝えておきます」



 バッ!!!

 とリンドが立ち上がり


「やったぁぁぁ!!」


 大きく叫んでしまう

 しかし


「いってぇぇ……」


 ルースに激しく打たれた左腕が痛くうずくまってしまう


「今日明日は療養して、訓練は明後日からにしましょう」


 おいおくって差し上げろ、と

 『キャッスルガード』の男にルースが命令を下し

 リンドは男に抱えられ元居た離れの建物に運ばれていく


 ルースが呆れたように言ったが

 その顔は少し微笑んでいた。



だけど、これで俺も魔法を覚えることができる……


 

 そう考えると

 リンドの心は少し軽くなる



 これからだ



 ここからひとつずつこなしていくんだ




 自分と、

 大切な人くらいは守れるように


 








 


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