魔法と剣①
昼食を離れの食堂で済ませたリンドは芝生の敷き詰められた広場に木剣を携え駆け出る。
木剣は少し小振りで、12歳のリンドに合わせてこしらえられた物だ
王宮方面から休憩を終えたキャッスルガード達がゾロゾロと列をなし帰って来ているのを確認し、
リンドは先頭を歩く金髪の体格の良い男に手を振って叫ぶ
「ししょ~!」
皆が笑い、金髪の男に対口々に言う
「今日も殿下が来ましたぜ」
金髪の男は少し呆れながらも、笑顔で
「不肖、ルース・セリオンがお相手いたします」
とおちゃらけた感じでリンドに告げる。
その後、何十の打ち合いを経て汗だくになったリンドに対しルースは汗で額を濡らすことすらなく平然としており、足に力が入らなくなり堪らず座り込んだリンドに向かって
「今日はこの辺で終わっておきますか」
と言いリンドの丈ほどある木剣をしまおうとする。
しかし、今日リンドはどうしてもルースに教えてもらいたいことがあって制止する。
「ししょう今日は魔法を教えてもらいたいんです!」
リンドとしてはせっかくの剣と魔法の世界に転生したわけなので魔法の方にも触ってみたいという考えである。
しかし、魔法に関してあくまで本人の判断ではあるが、成人まで止めたほうが良いというのが教育係であるカリナ・アースリーの方針であったのだ
「魔法……ですか」
案の定ルースの反応も思わしくなく、少し物怖じしながらも、リンドはもう一度懇願する。
「はい……お願いします師匠」
ふむぅ
と息を漏らしながらルースは自らの前に立てた木剣にもたれ掛かり、柄に両手を乗せる。
「殿下は内魔法の適正でしたよね」
続けて語り出す。
「内魔法は外魔法に比べて性質上魔導管が損耗しやすいのです」
「真導管の説明はカリナ殿から聞いていますか?」
魔導管とはマナの通り道であり魔法を使う上で必須の器官
そしてその器官の内向きが多いのが内魔法
外向きが多いのが外魔法であり、大半の人間はそのどちらかに分類される事が多い
「聞いています」
リンドは答え、それを知ったうえでも魔法を覚えたいと意思を示す。
ーーそうですか
ルース・セリオンが下向き、すこし考えた後、言葉を返す。
「では基礎魔法を教えましょうそれならば魔導管への負荷も少ないはず」
思いもよらぬ答えにリンドは跳ね上がって喜ぶ、それは先程まで見えて汗だくで座り込んでいたとは思えない程に
「内魔法の基本はマナを多く取り込み体内で燃やすというものです」
「いくつか一般的な流派がありますがどの流派も基本は『ストレングス』身体能力の強化です」
そこからいきましょう
そう言いルースがレッスンを始めようとするとリンドはバツが悪そうな顔をする。
それに気付いたルースは嫌な予感を感じリンドを問いただす。
すると
「それはもう本で読んで覚えちゃったんだよね」
リンドの言葉にルースは頭を抱える。
ーーはぁ
「何処までやったんです?流派は?」
詰められたリンドは、自らが子どもであるという事を最大限に活かし
無邪気さで乗り切る事にする。
「ほんとさきっちょだけ!『ストレングス』しかやってないって」
「流派は『会名烈身流』だったかなぁ」
又も頭を抱えるルース
モジモジと無邪気さ故の過ちを演出するリンド
「またニッチな流派を……建国時の流派ですよ!一体どこで見つけたんです」
それもそのはず
基本的に魔法について記述のある書物はカリナ・アースリーが全て別に保管してあり読むことができない。
しかしリンドは建国記を読んでいる時に『会名烈身流』の詳しい記述があるのを発見し学ぶことが出来たのだ。
ニッチな流派である事もあって、カリナの目を逃れることができたわけである。
ーーでは
少し重い動作でルースが木剣を肩に乗せながら言う
背を向け少しリンドから離れながら語り続ける。
「『会名烈身流』では1段の『ストレングス』を覚えた段階で立ち会い稽古を行うとか……」
10メートルほど離れたルースが振り返った時リンドに悪寒が走る。
ルースの佇まいには今にも首を跳ねられそうな圧があり
この人こそキャッスルガードの副隊長である事を再認識させられる。
「曰く、その立ち合い稽古で兄弟子に一太刀入れたものだけが次に進め、それ以外のものは破門となるそうな」
リンドの丈ほどある事を木剣を構える。
「その覚悟はおありですかな殿下?」
ーーゴクリ
固唾を飲んだリンドは前世を思い出す。
前世ではやりたい事の半分もやれず30そこそこで死んでしまった。
つまり、人生とはそう長くはないということ
やりたい事はやらずに後悔するのは嫌だ
リンドは木剣を握り下段脇に構える。
リンドは前世の記憶を持ち平和な日本で悠々と過ごしていたと今では考える。
しかしこの世界に転生し、生まれてすぐ母を亡くし
剣と魔法により起こる事件の多さを学んだ
これは護身のための技術
せめて自分の周りの人間くらいは守りたい、そう思ったがゆえの行動だった。
この世界は本当に多くの人が死ぬ
「行きます!師匠!」