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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Chapter4,『死神の旋律』
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98,

「貴方も、先生になにか武器を作ってもらってはいかがですの?」


 アザレアの言葉に、イツキは彼女を見下ろす。

 しかし


「……は?」


 何故か剣呑とした声を上げるイツキに、アザレアは首を傾げる。


「え、ワタクシ何かおかしなこと言ったかしら……。貴方の模擬戦(シュミレート)を見てるとよく思いますわ。近接武器があんなに得意なら、何か持てばいいのにって」


 手元の銃を消しながら困ったように眉を寄せるアザレア。イツキはどこか気まずそうに呟く。


「別に、おかしくない。ただ俺の場合、実戦で武器は使えない。“精霊の加護(プロテクション)”が封じられるから……」


 イツキはそう言って自分の手のひらを見つめる。黒い革の手袋に包まれた手は、どこか無機質に見えた。


「《死を運ぶ風(ウィンド・オブ・デス)》は、直接生命を持つものに触れたときにのみ発動する。だから、剣とか斧とか、無機物を通してだと発動しない」


「……だから、ずっと素手で戦ってるんですの?」


 アザレアの問いにイツキはうなずく。そんなふたりに、アキラは頬をかいて苦笑した。


「なんなら、イツキがシミュレートに参加できるのはそのおかげだもんな。――剣にまで力を通すことができたら、ちょっと戦っただけで訓練でも相手が灰になる」


 そう言ってヘラっと笑うアキラ。


「笑い事じゃねぇ」


 ギロッとイツキは彼を睨むが、その表情にはどこか諦めも滲んでいた。


 楽しげな空気ではち切れんばかりの店内に、鬱々とした空気はすぐに埋もれかき消される。

 しかしそんな三人を……たった一人、天音だけがちらりと横目で見ていた。



<><><>



「……さてと、」


 首都中枢塔宛に報告書を書き終えて、天音は伸びをしながら立ち上がる。


 5月20日の夜。《ひととき亭》ではスグルの誕生日を祝ってローリエがケーキを焼いたと得意そうに笑っていた。


 ――『おねえちゃんも食べに来てよ!』


 夕食の時、無邪気な声でローリエに誘われたが、断って帰ってきた。父娘ふたりの水入らずの時間に邪魔するのは、野暮もいいところだ。プレゼントもちゃんと喜んでもらえたし、いつもお世話になっているお礼もちゃんと言えた。今年のミッションは達成だ。


「……どうしよう」


 しかし、そんな浮ついた気分も気がついたらどこかに消えてしまい、代わりに残ったのはとある懸念点だった。天音は作業用のデスクから離れて、猫脚のローテーブルに近づく。その上には、キラリと金色の光を反射するものが置いてある。



『修繕師の君なら、僕なんかの本体でもきっと何か役に立つことに使ってくれる』



 そこに置いてあるのは、一振りの金色のナイフだった。

 旅商隊(キャラバン)に紛れて“首都”に侵入し、修繕師の暗殺を試みたアーティファクト、カイトの“本体”――亡骸とも言うべき代物だった。


「あの人は、修繕師(リペアラー)を買いかぶり過ぎだな」


 天音はそう言って、静かにナイフを持ち上げる。錆や汚れを落とし、丁寧に研磨をかけたのが功を奏したのか。そのナイフは機械ランプの穏やかな光を金色に跳ね返す、宝石のように美しい武器だった。


「私の好きにしていいって言ってたけど……こんな得体のしれないものどうしろっていうの?」


 天音は眉間にぐっとしわを寄せる。

 彼女がここ数日悩んでいること――それは宿敵の亡骸の始末の方法だった。

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