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「そ……れは?」
天音の手元を見て、スグルは目を見開く。“兵器”たちもただただその様子を眺めることしかできない。
「?――見ての通り、包丁ですけど」
天音が両手で抱えているのは、刃渡りが一メートルを超える、包丁にしては明らかに巨大な刃物だった。
武器のようなゴツい見た目と大きさ。何より、その刀身は淡い虹色に輝いている。
「いや……刀だろ」
思わずイツキが呟く。天音はジトッと横目で彼を睨んだ。
「いいえ。確かに《セイレント鉱》を使って、仕立ても刀や剣とほぼおんなじですけど……包丁です」
天音はそう言うと再びスグルに目を向ける。
「前に石炭の加工が面倒だとおっしゃっていたので作ってみました。これ一本で石炭だろうがコークスだろうが、なんでも切ることができます」
天音はそう言うと、足元のコンテナからさらに、金属製の板と紙に包まれた物体を取り出す。
「これまな板のつもりで作ったんですけど……普通の木製のまな板だと普通に真っ二つにしちゃうので、必ずこれの上で使ってください」
「まな板を……真っ二つ」
アザレアが表情を引きつらせる。天音はカウンターの上にまな板を乗せると、紙の包みを開く。中から転がり出てきたのは、こぶし大の石炭の塊だった。
「まあ、こんな感じで」
天音は手に持った包丁を石炭に当てて刃を滑らせる。
『トン!』
軽快な音とともに石炭の塊は二つに切れて転がる。
「こ……これは、すごいですねっ!」
スグルは驚いて目を丸くしたが、すぐにその目は好奇心であふれかえる。そんな彼の様子に、天音は得意げに微笑んだ。
「刃渡りが長くて重量があるので、力を入れなくても硬いものや大きなものを簡単に切断することができます。作りも性能も実際はほぼ武器なので、最悪護身用にも使えますよ」
珍しくはしゃぐスグルと天音を、“兵器”たちは遠巻きにしかし微笑ましく眺める。
「護身用って……結局武器じゃないか」
呆れたように呟くイツキに、アキラは思わず吹き出す。
「まあほら、先生は武器作るの得意だから」
「修繕師じゃないのかよ」
不思議そうな表情をするイツキに、今度はアザレアが微笑む。
「独学で習得した技術だとおっしゃってましたわ。でもほら、」
アザレアはそう言うと、両手のひらを上に向けて差し出す。その瞬間、その手はやわらかな紫色の光に包まれて……
「――そうか。お前のそれは“本体”じゃないのか」
「この子達は先生に作ってもらったものですわ」
よく見慣れた二挺拳銃が現れる。艶々とした黒い銃身が、冷たく光を反射する。
「ワタクシ、軍部所属だった割に肝心の武器を何も持っていなくって……。だから先生が、作ってくれたんですわぁ」
親指で愛しそうに銃身を撫でるアザレア。イツキはもう一度天音を見る。
「もう一つあって……こっちの普通の包丁はローリエさんに。《セイレント鉱》製で切れ味はかなりいいと思います」
自らの作ったものを語る天音の様子は、どことなく楽しそうだった。
そんな彼女をただぼんやりと眺めているイツキを見て、アザレアはふと何かを思い立ったかのように彼を見上げた。