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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Chapter4,『死神の旋律』
95/476

95,

「いらっしゃいませ、巫剣先生」


 スグルが挨拶すると、天音はドアを開けて中に入ってくる。


「お誕生日おめでとうございます、マスター……。いえ、スグルさん」


 粗野な“兵器”たちの騒々しさとは打って変わって、天音は上品に頭を下げる。そして、賑やかなカウンター周りを見回した。


「皆さん、早いですね今年は」


「いや、先生も早いっすよ!?」


 天音の言葉にアキラは苦笑いする。天音はそんな彼に首を傾げた。


「そうでしょうか……。実を言うと、今年はちょっと寝坊してしまったんです。昨晩はプレゼントの“最終調整”に手間取ってしまって」


「……最終、調整?」


 イツキは胡乱な表情で天音を眺め、アザレアもパチリと目を瞬かせる。しかし、天音はそんな彼らには構うことなく、たった今入ってきたばかりの扉を大きく開け放った。


「来なさい!」


 外に向かって天音が叫ぶと、その声に呼応して金属の擦れあう高く軽やかな音が聞こえ――宙に浮いた(・・・・・)大きな木製のコンテナが、天音が開けた扉の外から現れた。


「!?」


 その異様な光景にアザレアが目を丸くする。アザレアだけでなく、スグルもその周りを取り囲んでいる“兵器”たちも驚きに目を剥いた。


 しかし


『マッテ、マスター……』


 不意にコンテナが弱々しい声を発する。


「その声……もしかして、ルクスか?」


 アキラが声をあげた途端、ここにいる全員の目にコンテナを吊り下げて運んでいる自動伝書機(キャリアー・ピジョン)の姿が映る。コンテナの大きさに釣り合わない体で、ルクスは天音の元までコンテナを運んできて、そっと彼女の足元に下ろす。


『マスター、モッテキタ』


「ご苦労さま。もういいよ」


 床のコンテナから手の甲にひらりと飛び乗ったルクスの頭を、天音は指先で撫でる。仕事の終わりを告げられたルクスは、パタパタと飛び上がると、そのまますぐ近くに立っていたアキラの頭に降り立った。


「うわっ」


『ツカレタ。キュウケイ』


 いきなり頭に乗られてあたふたとするアキラを尻目に、ルクスはどっしりと座り込む。アザレアは思わず吹き出した。


「ふっ!よくお似合いですわ、アキラ」


「ふざけんなって……」


 アキラは上を見上げて目を眇めるが、ルクスはただぐうっと首を伸ばした。


『キョウノマスター、ヒトヅカイガアライ。アレ、オモスギル』


 へたりとアキラのオレンジ色の髪の上で寝そべるルクス。アキラはなんとも言えない表情を浮かべる。


「それは……おつかれ」


 もう離れるつもりは毛頭ないであろうルクスに、アキラは仕方なさそうにため息をついた。そんな彼らを横目に見て、イツキは天音の足元のコンテナを見る。


「なんなんだ?それ」


「だからプレゼントですって」


 天音は腰をかがめると、コンテナを体の前まで引きずってくる。ゴリゴリと床を擦る音には重々しさがあった。


「そう言えば、」


 不意に、天音はなにかを思い出したかのように、体をかがめたままスグルを見上げる。


「去年のプレゼント、結局使い心地はいかがでしたか?」


「ああ……あれですか」


 スグルは天音の問いに何故か苦笑いを浮かべると、入り口の扉の上部に取り付けられているドアベルを見上げた。


「――まさか」


「え?もしかして、あれって……」


「せ、先生が作ったやつだったのか!?」


 スグルの視線に、にわかに“兵器”たちがざわめく。その様子にイツキは首を傾げた。


「?」


「……あの恐ろしい事件(・・・・・・)をもたらしたドアベルが……」


 アキラが思わず顔を引き攣らせる。さらに不思議そうな表情を浮かべるイツキを見て、彼の疑問に答えたのはアザレアだった。


「あのドアベルは……バケモノですのよ」

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