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「先行部隊一同からお誕生日おめでとうですわ〜!今年も、可愛いのをたくさん見繕って来ましたの」
「――毎年、ありがとうございます」
スグルはありがたそうにその紙袋を受け取る。
中に入っていたのは色とりどりの洋服だった。それも、あまりにも小さくてスグルの体には合わない上に、ひらひらとしたフリルやリボンがふんだんにあしらわれているものばかり。
それを見たローリエが、なんとも言えない顔をする。
「今年も、ローリエのお洋服ですわ!どうです、これなんかすごく可愛いでしょ?全部、ローリエに合わせて仕立ててもらったんですのよ」
「おとうさんの誕生日なのに……」
ほんの少し眉を下げたローリエに、アザレアはムッとした顔をする。
「なにを言うんですの?マスターが真に喜ぶのはローリエが嬉しいことですわ!それにマスターはローリエのおしゃれが大好きですもの」
親バカですから。と、最後に辛辣な一言を添えるアザレアに、スグルは苦笑いする。
「親バカって……」
「事実ですわ。だから、ローリエが喜んであげたほうが、パパは嬉しいのです!」
アザレアは期待に満ちた眼差しでローリエを見つめる。ローリエが、思わずちらりとスグルを見上げると、彼は微笑んだ。
「ローリエがおしゃれしてるのを見るのが、僕は嬉しいよ」
「……おとうさんがそれでいいなら――ありがとう」
頬を赤くしてもじもじとアザレアを見つめるローリエ。アザレアはぐっとガッツポーズをした。
「喜んでもらえて良かったですわ!ねえ、アキラ、イツキ?」
振り返った彼女の視線の先には、にこにこと笑うアキラと、相変わらず能面のような顔をしたイツキがいた。
「お誕生日おめでとうっす!マスター」
「……おめでとう、ございま、す」
愛想よく笑うアキラの隣で、イツキは言い慣れない祝いの言葉をぶっきらぼうに口にする。そんな彼をアザレアは不満げに睨むが、やれやれと肩をすくめる。
「皆さん、ありがとうございます」
嬉しそうに笑うスグル。ローリエは、一瞬カウンターの上に散らばった洋服を眺めて、スグルのエプロンの裾を軽く引っ張る。
「おとうさん……どれか、着てみてもいい?」
「!?――ああ、せっかくだから着ておいで」
スグルの言葉にローリエは大きくうなずくと、空色のワンピースを手にとって、ひらりとリビングに続く扉を開けて出ていった。
その後ろ姿を微笑んで見つめていたスグルが、アザレアとその後ろのふたりを見る。
「ありがとうございます。――僕じゃローリエが気にいるものを選んでやることができなくって」
「うふふ……任せてくださいな。おまけに――今年は資金源がひとり増えましたから、ゴージャスになってますのよ!」
アザレアの言葉に、後ろに立っているふたりは遠い目をする。
「まあ予想はしてたけど、イツキもしっかり巻き込まれたな」
「……金の使い道なんて特に無いし、別にいいんじゃないか?」
「そうなんだけど……ま、いっか」
毎年このためにアザレアに資金を徴収されているアキラは、やれやれと肩をすくめ、しかしスグルの嬉しそうな顔を見てすぐに相好を崩した。
相変わらず賑やかなカウンター前。ここぞとばかりにスグルと話そうと“兵器”たちが騒いでいると――
『カラン』
再びドアベルの音が鳴り響き、スグルは表のドアを見やる。
そこには、
「……まだ、間に合ってますか?」
ドアの隙間から顔を覗かせている天音の姿があった。