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「「マスター!お誕生日おめでとうっ!」」
――スグルがカウンターに足を踏み入れた瞬間、盛大な歓声と拍手が爆発する。スグルは思わず苦笑した。
「あはは……今年は早いですねー」
「あれ!もしかして一番乗りっ?」
カウンター前に押しかけていたのは、ゲンジが指揮する隊で働いている『Ⅰ型』“兵器”たちだった。
「朝はとりあえず非番の奴らだけ来ました!仕事ある奴らは夕方来ますね」
「――毎年毎年、よく飽きませんね」
クスクスと笑うスグルに、“兵器”たちは勢いよく詰め寄る。
「飽きるわけ無いでしょ!?」
「何のために先月も頑張って稼いだと思ってるんですか」
「このくらいしないと、マスター自分の誕生日祝えないじゃんか!」
口々に捲し立てられる言葉たちに、スグルはまた笑う。
すると、その様子を見ていたローリエが、スグルの横からぴょこっと頭を出した。
「はいはーい、みなさん!いよいよお待ちかねのぉ〜」
「「プレゼントで〜す!」」
ローリエの掛け声に、やたらハイテンションかつ息ぴったりで“兵器”たちは叫ぶと、各々きれいにラッピングされた包みをスグルに差し出す。
凝った模様の包装紙に包まれた四角い箱から、小洒落たデザインのタオルにリボンをつけただけのものまで。実に多種多様なプレゼントたちが、カウンターの上に雪崩だす。
「あははっ!ありがとうございます」
スグルが礼を言うと、“兵器”たちはわいのわいのとスグルの誕生日を祝う言葉を贈る。
――もはや、境界線基地毎年の恒例行事となった『スグルの誕生日』。
この日はベースに暮らす全員が、スグルに誕生日プレゼントを持って《ひととき亭》を訪れる。誰が強制しているわけでもなんでもなく、“ただやりたいから”という気持ちだけで、“兵器”たちは4月の給料をコレにつぎ込むのだ。
「今年も、みんな凝ってるなぁ……」
“兵器”たちにせがまれて、貰った包みを開けながらスグルは呟く。
「そりゃ、マスターこれから五十個はプレゼントもらうんだから……」
「飽きないようにとか、他の奴と被っちゃわないようにとか」
そう言ってまた笑う“兵器”たち。年々プレゼントの完成度が上がっていくのは、どうやらスグルが楽しめるようにと考慮してのことらしい。
「あれ!?お前らもう来てたの」
不意に、“兵器”たちの騒々しいざわめきの後ろ側から、さらに人影が現れた。
「いらっしゃいませ〜!」
「おはようなのですわぁ」
『カラン』とドアベルが涼やかな音をたてる。
ローリエの声に、今日はピンク色のドレスを身にまとったアザレアがにこやかに手をふる。その隣で、アキラが苦々しげな顔をした。
「くっそ〜。お前らに先を越されるとは……」
「毎年毎年、お前らも早すぎるんだ。いい加減、先行部隊に遅れをとるわけにはいかないからな!」
得意げにカウンターの前を陣取ってニヤつく“兵器”たちを、アザレアはやれやれと呆れた眼差しで見る。
「あらあら。皆様方はわかっておられませんわ〜。プレゼントは、早さではなく質ですのよ」
そう言って、アザレアはひらりと人の波をかき分けて、スグルに大きな紙袋を手渡す。