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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Chapter3,『正義の基準』
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85,

 ローレンスの呟きに、アズマは勢いよく顔を上げる。潤んだ緑色の目が大きく見開かれていた。


「お前に何がわかるんだっ!?」


 小さな肉球で地団駄を踏む。ホロホロと、目の縁から涙が溢れ出る。


「わかるわけないだろ、こんなのっ!」


「……わかるよ」


 しかし、ローレンスは静かにそう言う。きっぱりとした物言いに、アズマは思わず息を詰めて彼を見つめた。

 ローレンスはアズマが黙ったのを見て、囁くように語る。


「なんで……守れなかったのかって、思う。いつも一番そばにいたのは俺なのに。――肝心な時にひとりにして。挙げ句死なせてしまった」


「そ……れ、」


 アズマは目を丸くする。ふっと、脳裏にカイトと共有していた記憶のひとつ――カイトがローレンスの心を読んだ時に見た映像(ビジョン)が浮かぶ。

 二人を黙って見ていたアザレアは、ローレンスの語りにそっと目を伏せる。


「つらい。なんでこうなったのかって考えると、自分のせいなんじゃないかって思えて……。なにかひとつ行動を変えていれば、こうはならなかったんじゃないかって、今でも俺は思っている」


「――ボク、は……」


 不意にアズマが呟く。ローレンスが目を上げると、アズマは途方に暮れたような顔をしていた。


「ボクは、どうしたらいいの?――カイトがいなきゃ、ボクはなんにもできないよ……?」


「……さっきの無線連絡には続きがある」


 ローレンスは淡々と口調で続ける。


「カイトがお前について、俺の仲間に頼んだことがあるって」


「カイトが?」


 パチパチと目を瞬かせるアズマ。ローレンスはひとつ息をつく。


「“僕が死んだ後に、アズマを殺してあげてほしい。”」


「……ぇ?」


 ふわりと風が立つ。アズマの黒い毛並みが揺れた。


「“僕が生きている限り、アズマは死ぬことができない。せっかく僕が死ぬんだから、アズマを殺してあげてくれ……”だとよ」



 ――『僕とアズマ()は一心同体だ』



 不意に、あのときカイトが言った言葉を思い出す。


『僕が生きている間、君はずっと生き続ける』


『つらくても、苦しくても……君は生き続けないといけない。……ごめん。やっぱり酷だったかもしれない』


『そーだ。――僕が死んだら、君が何かしらの方法で死ねるようにしてあげるからさ、』


 ――『だからさぁ。もし……君さえ良ければ、僕と生きてよ』



「そっか。約束、」


 守ってくれたんだ。



 ぽつり。アズマは呟く。その様子を、ローレンスもアザレアもただ見つめる。

 敵とはいえ、アーティファクトであるということや、人間の起こした戦争で傷ついてきたという境遇は、“兵器”である二人にも痛いほど共感できるものだった。


 ――結局こいつも


 “つくられたこと”が一番の罪であり、一番の苦しみである犠牲者(・・・)なんだ。

 ローレンスは、そっと右手で片眼鏡(モノクル)に触れた。


「……殺して」


 ――しばらくの沈黙の後、聞こえたアズマの声にアザレアは顔を上げる。アズマは、カイトと同じ色の瞳で真っ直ぐこちらを見つめていた。


「“マスター”がいないなら、もうボクは頑張らなくてもいいよね……」


「――お前の場合は、そうなんだろうな」


 ローレンスはそう言って、自らの“本体”の照準を真っ直ぐにアズマに合わせる。


「……最期に、なんかあるか?」


「え?」


 目を閉じて顔を伏せていたアズマは、ローレンスの言葉に訝しげに顔を上げる。ローレンスはふいっと顔を背けて呟く。


「最期くらい、温情をかけてやらんこともない」


「そっか……じゃあ、ひとつだけ聞いてもいい?」


 アズマはへにゃりと笑うと、ローレンスを見つめる。


「君は……マスターがいなくても、これから先を生きていくの?」


「……そんなことでいいのか?」


 ローレンスは苦笑する。アズマはただうなずいた。

 ほんの少し考え込んだ後、ローレンスは静かに微笑む。


()には、マスターにもらった“使命”があるので。それが終わるまでは死ねません」


「!? ふふ……。そっか」


 アズマは笑うと、再び顔を俯ける。


「ありがと。」


 その言葉の後、ローレンスは静かに引き金を引く。

 弾丸がアズマを貫く、その刹那


 ――じゃあね。“ますたぁ”


 この呟きは、誰かに届いたのだろうか

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