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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Chapter3,『正義の基準』
84/476

84,

<><><> 


 

「……え?」


 不意にアズマの動きが止まった。ちょうど左手の銃が弾切れを起こしていたアザレアは、アズマから目を離さないままマガジンを外す。


「なんですの?急に動きを止めて……観念したんですの?」


 僅かな金属音を立てて、アザレアは再び銃を構える。しかし、アズマの目にはもう彼女は映っていなかった。


「え……なんで。ねぇ、返事して――、カイト?」


「……なんですの、ほんとに」


 様子のおかしいアズマに、流石のアザレアも困惑したように眉を寄せる。

 ちょうどその時、大きな音とともに今まで続いていた地面の揺れが止まる。アザレアが見上げると、こちらにゆっくりと進んできていたはずの『再構築製造機(リサイクラー)』の動きがピタリと止まっている。


「ん?なんだ……、止まった?」


 ローレンスも、突然動かなくなったリサイクラーを見上げて目を瞬かせる。


「こっちも、猫がおかしいんですの。一体……」


 しかし、アズマは首を傾げるローレンスとアザレアを無視して、ひたすらに虚空に呼びかける。


「カイト……ねえ、カイトっ!返事しろっ。なんだ――怒ってるのかぁ?ボクがなかなか敵を倒せないから、怒ってるのか……」


 ――違う、


 そんなはずがない。カイトの……カイトの生体反応が、失くなるなんて……

 アズマはただ呆然と佇む。何度も何度も、自らの()の名を呼ぶ。


『ザザッ、』


 不意にローレンスの耳に、無線連絡のノイズが走る。耳に手を当ててアザレアに目配せをすると、彼女はこくんとうなずいて引き続きアズマを睨んだ。


『……こちらアキラ。ローレン聞こえてるか?』


「こちらローレンス。聞こえています。オーバー?」


『――実は、』


 やけに真剣なアキラの声。紡ぎ出される言葉の羅列は、ローレンスに少なからず衝撃を与えた。


「……そう、ですか。わかりました、こっちで対処します」


 通信を切ったローレンスを、アザレアはちらりと伺う。その紫の瞳が疑問で溢れかえっているのを見て、ローレンスは答える代わりにアズマに一歩歩み寄る。


「おい、クソ猫」


「カイト……、へ、んじ、」


「おいっ!」


 ローレンスは反応しないアズマに声を荒らげる。するとアズマはキッとローレンスを睨みつけた。


「うるさいっ!邪魔すんな、ボクはカイトにっ、」


 

「カイトは死んだ」


 

 ローレンスは淡々とした声でアズマを遮る。刹那、その空間は静まり返った。アズマはゆるゆると首を横に振る。


「ちが……、う、嘘だっ!」


「たった今、カイトを相手にしていた奴らから連絡があった。――イツキの“精霊の加護(プロテクション)”で灰になったらしい」


「嘘だっ!!」


 アズマは叫ぶ。悲痛な声は辺りに響いた。肩で息をして、アズマは顔を伏せる。


「そんな……そんなわけがない。カイトは強いんだ。負けるわけないんだ。――ボクの“マスター”が、たかが“兵器”なんかに負けるわけがないっ」


「――でも。本当はもう……貴方だってわかっているのではないですの?」


 アズマに照準を合わせたまま、アザレアは形の良い細い眉を下げる。哀れみ、悲しみ。ありふれた同情心がその表情には透けていた。


「“一心同体”なのでしょう?なら……もう、」


「うるさい、うるさいっ!」


 アズマはぶんぶんと頭を振る。大きな耳がパタパタと揺れた。――大きな緑色の目はうるうると潤んでいる。


「違う。こんなの、大嘘だ。マスターもお前らも、嘘つきだっ!」


 アザレアはどうしたらいいのかわからず、ただ彼を見つめることしかできない。すると、


「――苦しいよな」


 小さな、ローレンスの呟きが聞こえた。

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