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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Chapter3,『正義の基準』
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83,

 カイトの願いに、天音はきょとんと目を瞬かせる。


「私で……いいんですか?」


「君がいいなぁ。ほら、もらってくれた後は煮るなり焼くなり、好きにしてくれていいからさ。――修繕師の君なら、僕なんかの本体でもきっと何か役に立つことに使ってくれる」


 そうでしょ?と、カイトは天音を見上げて首を傾げる。天音は驚いたように息を吸い込んで……ぎゅっと両手を握り合わせた後、右手を胸に当てて深く頭を下げる。


「ご依頼、確かに遂行させていただきます……」


「――ありがと。よろしくね」


 カイトはそう言ってまた天井を仰いだ。ふうっ、と大きく息を吐き出す。


「ああ、そうだもう一個!」


 今度はロビー中に響き渡る大きな声だった。


「誰でもいいからさ、僕が死んだ後に……アズマを殺してあげてくれない?」


「は!?」


 この言葉に目を剥いたのはアキラだった。その驚きように、カイトは声を上げて笑う。


「アズマは文字通り僕の一部だから……僕が死なない限り、あの子は死ねないんだ。……せっかく僕が死ぬんだ。あの子も殺してあげてほしい」


 頼める?と、呟くカイトを見て、アキラはしばらく眉を寄せて逡巡していたが、やがて右耳のインカムに手を当てる。


「あの猫と交戦してるのは、多分将軍かローレンだと思うから……頼んどいてやる」


「ありがと……」


 カイトはそう言って微笑むと、大きく咳き込んで息を吐く。肩で息をしながらイツキを見上げた。


「今度こそ、よし。お願いできる?」


「ひとりで死ね。……とは、今回ばかりは言えないからな」


 イツキはため息をついた。


「横柄なやつだな。死に際で頼みばっか」


「はは……。君の友達はいいやつばかりだね。全部お願い聞いてくれた――ゴホッ、」


 ――はぁ、はあっ……


 カイトは苦しさを飲み込んでイツキを見上げて……笑う。


「君は――世界で唯一で、一番の、僕の親友だ」


「……血迷ってんじゃねーよ。俺はお前のこと、友達だと思ったことはない」


 冷たくあしらうイツキに、カイトは声を上げて笑う。その頬を、涙が滑り降りていく。


「僕は……君のそういうところが、好きだ」


「……」


 イツキはいつもの能面でカイトを見下ろす。が、小さく息をついて――右手を差し出した。


「気は乗らないが……『死神』らしく、お前を殺してやる」


「君は……優しいなぁ」


 カイトはそう言って笑うと、イツキの手を掴む。と、


「!?」


 そのままイツキの手を引っ張り、自分に引き寄せた。


 

「――。」


 

 カイトはイツキの耳元に何事かを囁く。言葉が切れた、その瞬間……


『サァー……』


 カイトの体は灰になって崩れ去った。


 

 <><><>


 

(目が開く。視界に人影が映る。)


『――おお!できたじゃん。僕天才かも』


(これは誰かの声。)


『――だ、れ?』


『マジ!?この見た目で喋れるのか。いいね〜。――僕は“カイト”。君の……製作者(マスター)だ』


『ます、たぁ』


『そうそう!いい子だな〜、君。見た目も猫だ(かわいい)し、僕からできてるとは到底思えないなぁ』


『いい、こ?』


『もちろん……。そうだ。せっかくできたし、名前でもつけるか』


(“ますたぁ”は目を閉じる。沈黙。)


『ん?』


(風が吹いてくる。春の風は東から吹いてくる。)


『春風……ああ、これだ』


(“ますたぁ”は“ボク?”を見る。笑顔。) 


 『君の名前は――』

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