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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Chapter3,『正義の基準』
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81,

 イツキは、ただ無表情のままカイトを見つめる。


「フッ……。なんかこの感じ懐かしいね、模擬戦シュミレートみたいで。じゃあやっぱ、二対一なんてズルいよ。――どうせこれが最期なんだから、サシでいいじゃん」


「お前と1対1(マン・ツー・マン)なんて、もう二度とやりたくなかったが。……どっちの最期(・・)になるか、見ものだな」


 はあ。と、イツキは呆れたようにため息をつく。カイトはクスクスとまた笑うと――すっと表情を消した。

 

「僕は僕の道をゆく。だから……君を殺して、人間を滅ぼす」

 

「……端から、相容れないのはわかっていたから……自分の思想を覆す勇気がないなら、ここにお前は必要ない。死ね、カイト」

 

 淡々とそう吐き捨てると、イツキはカイトに斬りかかる。カイトも同じようにイツキの懐に走り込む。そうやってまた、一対一の戦いが始まる。


 

「あ〜!また目を狙おうとしたなっ。顔に傷がつくからやめてっていっつも言ってるのにぃ……。読めてるからな、イツキの動きはっ」

 

「思考を読むのやめろ!確実に俺が不利だろうが……。いつもそうだから、目を潰そうとするんだろ」


 真剣勝負のはずで。お互いの生死と、矜持と――“首都”に生きる人間すべての命がかかっているというのに、二人の戦いは本当にただのシュミレートのようだった。

 楽しそうに笑ってイツキを殺しにかかるカイトと、呆れつつもカイトの体に確実に傷をつけていくイツキ。今まで誰にも見せたことがなかった、二人の戦いだった。


「……」


 天音は、踊るように戦う二人をただただ見つめる。無性に息が詰まる。ぎゅっと、両手を胸の前で握った。


 ――もし、人間がアーティファクトを見捨てることなんかせずに、争いをやめていれば


 この二人の戦いは、本当にただのシュミレートで終われたのだろうか。ありえることのなかった『もしも』を、天音はそっとなぞる。


「あはははっ!楽しい、やっぱり楽しいや。イツキと戦うの」


「……」


 カイトの底抜けて明るい笑い声と、無言のまま微かに眉根を寄せるイツキ。

 アーティファクトにとっての命の奪い合いというのは、初期設定に組み込まれたいわば本能のようなもの。しかし、それ以上にカイトもイツキもひたすらにこの戦いを楽しんでいた。


 ――終わりを約束された戦いを……


 今ここいる全員が、この戦いをあっけにとられて見守ることしかできなかった。



 <><><>



 永く感じた。ずっと、このまま舞い続けるのかと――舞い続けられるのかと思った。

 全部全部失くした。故郷も居場所も……たったひとりの(・・・・・・・)友達も


 ――そういえば……、最初に与えられたモノをずっと持っていられるなんて、なんでそんなふうに思っていたんだろ、



 思っていたよりも、あっけなく戦いは終わった。


「ガハッ!……っう」


 カイトの体が壁に叩きつけられる。彼の体を押さえつけるイツキの手にはナイフが握られていて――


「いっ……てー、」


 それは、深々とカイトの胸を抉っている。カイトが息を吐くと、口の端からポタポタとグリスが滴り落ちた。

 カイトとイツキ以外の者たちは、じっと息を詰めて二人を見つめる。


「――終了(フィニッシュ)


 イツキが静かに呟いた。

模擬戦シュミレート


“大戦”中、主に北方軍で用いられていた訓練。

軍の動かし方や作戦の立て方などをボードゲームで競い合う『模擬戦略タクティクス』と、実際に武器を持って戦闘訓練をする『1対1(マン・ツー・マン)』の2種類がある。

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