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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Chapter2,『100年の眠りの先』
8/476

8,

「……首都の『指定修繕師スペシファイ・リペアラー』が、あんなに若いとは思いませんでした」


 瀬戸がちらりと『遺物境界線レリックボーダー』を振り返って呟く。

 ニ人が境界線基地ボーダー・ベースからでてくる頃には、空は夕焼けに染まっていた。


「私も驚いた。――まさか、あんな小娘だったとは……」


 阿久津もうなずく。

 意外ではあったが、あの的場がわざわざ手紙を出して彼女に頼んだのだ。

 おまけに触れただけで死をもたらすアーティファクトを前にしても、冷静そのものだった……


 ――優秀では、あるんだろうな……


 最後にもう一度『遺物境界線レリックボーダー』を見つめて、ニ人のセナトスは中枢区ヌークリアスへと足を向けた。



<><><>



「……もう、出てきてもいいですよ」


 窓から赤く染まった夕暮れの光が差し込む。その光に包み込まれて、天音はそう机の上の()()に声をかけた。

 タリスマンはびくともしない。普通はそれが正しい反応であるのだろうが、天音は机に近づいて腕を組んだ。


「何が嫌なのか知りませんが、元老院セナトスのあの二人は帰っていきました。……いい加減、“現身うつしみ”を見せて、お話を聞かせてもらえませんか?」


 呆れたような天音の言葉が、部屋に響く。一瞬、あたりに沈黙が舞い降りた。



『はあ……』



 ――と、ため息のような音が聞こえ、天音は顔を上げる。


 ひらり。ローテーブルの奥で、黒い布が風もないのに翻る。天音の視線の先には――背の高い、黒いマントを羽織った人物が立っていた。


 フードを目深に被り、その顔を見ることは出来ないが……フードから出た首元、ちょうど右の鎖骨の上辺りに、あの精霊護符タリスマンが皮膚に埋め込まれるような形でついている。天音は腕をおろして、じっとその人物を見つめた。


「何故……?」


 フードからわずかに覗く唇が、そんな言葉を紡ぎ出す。低く凪いだ男の声だった。


「ここまで精巧に作られた人工遺物アーティファクトが、現身を持っていないわけ無いので。……人間の形をしているかどうかは、私の勘ですが」


 天音の言葉に、フードの人物はまた息を吐き出すと、彼女に正面から向き合うように体の向きを変える。



「私は『修繕師リペアラー』の巫剣 天音といいます。――あなたの名前は?」



 天音の問いに、男は少し黙り込んだ後、被っていたフードを後ろに払った。

 目にかかるほど長い黒色の髪。すっと通った鼻筋に、薄い唇。眉目秀麗という言葉が似合うであろう、二十歳くらいの青年だった。


 その目は自身の“本体”と同じ、深い紅色あかいろをしている。



「……“イツキ”と呼ばれている。さっき話していたとおり、『Ⅲ型』――プロテクション・タイプのアーティファクトだ」

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