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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Chapter3,『正義の基準』
78/476

78,

 ――ん?



 しかし、ローレンスは不意に閉じていた目を開く。


 戦闘音でも、地べたを這いずる音でも、高笑いでも無い音が耳に入る。遠く小さいその音は――ローレンスがよく聞き知ったものだった。


「っふ……」


「?――なに笑ってんのさ」


 振り返ったアズマが、突然吹き出したローレンスを怪訝な顔で見る。ローレンスは微笑んだままアズマを横目で見下ろした。


「いや?――ただ、」


 ()()()がした方向をちらりと見上げて、またくすりと笑う。


「ただ……、来てくれたんだなぁと、思って」


 ぼそりとローレンスは呟く。

 リサイクラーは今にもローレンスを轢いて、飲み込もうとしていた。


 ――その時、



『パン!パパーン――ッ!!』



 軽やかな銃声とともに、ローレンスとリサイクラーの間をひらりと人影が横切り――リサイクラーが怯んで動きを止めた。



<><><>



「ごめん。ちょっとしくじった」


「“ちょっと”、なんてもんじゃないですわっ!……まったく。無事で良かったですわぁ」


 鮮やかな紫のスカートが翻る。細い手が握った二挺拳銃が、ローレンスを囚える黒い蔦を撃ってバラバラにした。ローレンスは体を起こす。


「ゲンジの方に行かなくて良かったの?――アザレア」


「将軍の方に行ったら、貴方のところへ行けと言われたんですわ」


 ――そこに立っていたのは、ローレンスを呆れたように見上げるアザレアだった。ローレンスは苦笑する。


「過保護だな……あいつも」


「このザマならそれも納得ですわっ!バカローレンス」


 アザレアは鼻を鳴らして、銃の背でローレンスの二の腕を小突く。


「相手はたかだか猫と……()()()()でっかいリサイクラーくらいですわ!倒せなくってどうするんですの!?」


「――ごもっともで」


 ローレンスは堪えきれないように笑う。そんなローレンスを睨みながらも、アザレアは不思議そうに首を傾げた。


「こんな状態になってた割に、随分余裕そうですわね」


「アザレアの――足音が聞こえたから」


 眉を下げながら微笑むローレンス。アザレアは目を丸くした後、バシリと彼の背中を叩いた。


「やっぱりバカですわぁっ!」


「いってぇ……」


 背中を押さえるローレンスを尻目に、アザレアは右の銃口をひたりとアズマに合わせる。


「これが噂の、アーティファクトの“分身”ですか」


「……アザレア気をつけて」


 ローレンスも同じように銃口をアズマに向ける。


「こいつは“分身”の本体――今ベースの中にいるカイトを倒さないと殺せない」


「!?……なるほど、ですわ」


 納得したようにうなずくアザレア。一方、アズマは気に食わない様子で鼻に皺を寄せている。


「増えたしぃ……。まあ、何人いてもみーんな、アノ子の餌になるだけなんだけどね〜」


 アズマがそう言ってニヤッと笑った瞬間、再びリサイクラーがローレンスとアザレアに向かって動き始める。ローレンスが銃口をリサイクラーに向けた。


「僕たちにできるのは、とにかくこいつらを止めておくこと」


「単純ですわね。――愉しくなってきましたわぁ」


 アザレアは左手の銃もアズマに向ける。彼女の表情は恍惚としたものだった。


「――たったの二人で、ボクたちに勝てるの?」


「フフッ。やってみなければわかりませんもの」


 優雅な微笑み。紫色の目がキラリと光る。



 ――またひとつ。荒野の只中で戦いが始まろうとしていた。

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