70,
「自分の気持ちに嘘をつくのは良くない。」
周りにいる“兵器”たちを見回す。困惑と、怒りと焦りと。そういったものが綯い交ぜになった空気に、カイトは静かに語りかける。
「ここにいる誰しもが……人間に嫌なことをされた記憶を何かしら持っているはずだ。――人間にとって、アーティファクトとはあくまでも戦争のための道具に過ぎない。戦争をしなくなれば、価値がないのはおろか力が強すぎるあまりに脅威になる。だから、“大戦”終戦後の世界で、アーティファクトは冷遇された」
淡々とした語り口に、ロビーは再び静まり返る。その静寂をカイトの声が裂いて進んだ。
「『いらない』とはっきり言われて拒絶されて、戦争で何もなくなった世界に放り出されたとき、僕は人間を守ることをやめた。この“壁”の外側にはそういうアーティファクトがゴロゴロしている。――むしろ、この壁の中で人間に必要とされている君たちのほうが、この世界では異質な存在なんだ」
一瞬の間の後に、カイトは続けた。
「君たちの今の生活は幸せかもしれない。でも、人間というのは結局自分本位の愚かな生き物だ。そんなもの、守ったところで何になると言うんだ?君たちの時間を浪費するだけだろう?――いくらアーティファクトの時間が永遠であっても、これはいただけない」
――だから。
「僕たちは修繕師の暗殺と同時に、君たち“兵器”に提案をしに来たんだ」
「提、案……?」
アキラが訝しげに眉を寄せる。カイトはうなずいた。
「君たち、僕の仲間にならない?っていう提案」
――空間が固まった。
時間以外の全てが静止し、その中でカイトだけが首を傾げる。
「え、そんなに驚くこと?――別に難しいことでは無いんだよ。僕についてこの壁の外に出てきてくれるだけでいいんだから」
なんでも無いことのようにカイトは言う。すると驚愕のあまり固まっていたアキラが、ぐっと顔を上げた。
「――んな提案、受け入れるわけが無いだろ」
「え〜!?君たちにとっても、かなりいい条件だと思うんだけど」
カイトは目を丸くした。
「どのみち、もう人間たちには滅びの道しか残されていない。君たちの居場所もそろそろ無くなろうとしているんだよ」
「だから、そうならないように俺たちが守って……」
「たったの五十人弱で?僕らの軍勢はその他のアーティファクトだ。――“大戦”で作られたアーティファクトって……いったいいくつあったっけ?」
カイトの言葉に、アキラは言葉をつまらせる。
「っ……でも。それでも、人間を守りたいって思うのは俺たちの勝手だろ!?ここにいる全員、何かしら人間に恩があって、人間のことを好きだって思っていて……。だから、お前の提案は受け入れられるものじゃない」
アキラの言葉に、周りの“兵器”たちははっと顔を上げる。そんな様子にカイトは舌打ちをした。
「強情だなぁ……。じゃあ、いいよ」
カイトはそう呟いて、天音をさらに引き寄せた。彼女の喉元を再びナイフが掠める。
“兵器”たちに戦慄が走った。