69,
「“兵器”って、思った以上に人間に忠実だね。……でも、」
カイトは顔をあげると、ローレンスを見つめる。昏い緑色のカイトの眼差しが、明るくきらめくローレンスの目を真っ直ぐに捉える。
「ローレンス、そいつから目を離せっ、」
イツキがとっさに、ローレンスの方を振り返る。しかし、
「っ!?」
その瞬間、ローレンスがはっと息を呑んだ。
明るい緑色の瞳が大きく見開かれる。
「――チッ、」
イツキが舌打ちをして、またカイトを振り返る。カイトはふっと目を細めた。
「こ、れは……?」
「おい、ローレン、」
ゲンジが声をかけるが、ローレンスはカイトの瞳から目を離すことができない。周りの“兵器”たちの困惑に、カイトの足元でアズマがニヤッと笑った。
「『Ⅲ型』アーティファクトの称号は、なにも『死神』だけのものじゃあないよ」
「まさか――“精霊の加護”?」
ゲンジの呟きに、カイトはまた笑った。
「……へぇ。君――ローレンスだっけ。ほんとに君は人間のことが好きなんだね。修繕師を守ろうって躍起になってるのはそのせいでもある」
「っ……あ、たりまえだろ、」
頭の中を引っ掻き回すような目眩に襲われながらも、ローレンスはそう言い放つ。
「ふむふむ……。なるほど。君がここまで人間を守ることに執着しているのは――製作者の影響なのか」
「!?」
ローレンスが驚きに目をみはる。
「なんで……そんなこと、」
「僕の《深層の証言》は君の心を読むことができる。――心を読む、というよりかは記憶とか感情とかの深いところをすくい上げることができる、というのが正解」
そう言ってカイトは、細い目を大きく開く。吸い込まれるような緑色の瞳に、ローレンスは息を呑んだ。
カイトの甘ったるい猫撫で声が、いやにロビーに響いてやまない。
「君のマスターはいい人だね」
「や、めろっ、」
「優しくて、あったかい記憶ばっかりだ。――あんなことで死ぬにはあまりにももったいないくらいには」
「……」
カイトを見つめたまま、ローレンスは苦しげに荒く息をつく。ぐっと拳を握りしめる彼を気にもとめずに、カイトは話し続けた。
「君は、本当は人間が憎いはずだ。だって――君は大切なマスターを、身勝手な人間たちに殺されている」
「……ちが、」
「違わないね。やっぱり君は僕たちと同じ。……人間に、大切なモノを奪われた」
そう言って、カイトは瞬きをする。その瞬間、空気の硬直が解けてローレンスはよろめいた。
「大丈夫か!?」
隣で手出しもできずにこの様子を見守っていたゲンジが、ローレンスの体を支える。うつむいている彼の表情は見えないが、荒い呼吸の中にささやきが混ざる。
「俺は……どうして、」
「ローレン……?」
声をかけても返事をしないローレンスに、ゲンジは焦燥を滲ませる。そんな彼らを見て、カイトはくくっ、と喉を鳴らして笑った。