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睨みつけてくるイツキに、カイトは目を向けた。
「流石、お見通しってわけ」
「胸糞悪い性格してるお前ならやりかねないだろ」
カイトは、やれやれと言わんばかりに肩をすくめる。
「ひっどい。ほんとはさ、もっと秘密裏にやるつもりだったんだ。……アズマがここの中に入ることさえできてしまえば、後はアズマをマークにしてどうとでも忍び込めるからね。寝込みでも襲ってグサリ。とかさ。まあ、こんなに早く見つかるのは想定外」
そう言うと周りを見回す。
「錚々たる顔ぶれだね〜。見たことあるアーティファクトだらけ。おまけに――首都大元帥までいるのか」
苦笑いして、カイトは天音に目を落とす。
「まあ、と言っても狙うは修繕師だけどね」
その声に、天音の肩がビクリと震える。その表情はいつもの通り無表情だったが――僅かに強張っているのが、普段の彼女を知っている者にはわかった。
珍しい、怖がっているときの顔だった。
「――いい加減にしろ」
そんな彼女の様子を見て、低い声がうつむきがちに呟く。不意に後ろから聞こえたその声に、イツキはカイトから注意を逸らさないまま様子を伺う。
――ローレンスの緑色の目が、恐ろしいほどの冷たさを孕んでカイトを睨みつけていた。
「先生から、手を離せ」
「んー。ここで、はい。と言う愚か者がどこにいるのやら」
カイトは飄々と言う。ローレンスが一歩前に出た。
「こんなことが、人を守るために作られた俺たちのすることか!?」
珍しくいつもの冷静さを失ったローレンスが声を荒らげる。呆れたような顔をして、カイトは首を傾げる。
「人を守る。ねぇ……」
彼はふっと鼻を鳴らした。あたかも嘲笑うかのように。
「最初の目的はそれだった。そうなるように、僕たちはできているから。でも、先にそれをやめさせたのは――人間だった」
カイトの口角がついっと上がる。その目は昏い色をしている。
「アズマも言ったけどさ、人間ってのは傲慢で身勝手で自己中だ。勝手に作って守れって言って、殺し合えって言って。挙句の果てに、戦争をしなくなったら捨てるんだ」
カイトが身じろぎをする。天音は、自分の首に冷たい感触が走るのを感じた。また近づいてくる“死”に、心臓が嫌な音を立てる。
「ここまでされて、守ろうとは思わなかったな、流石の僕でも。……君は違うんだ」
「ああ、違うな」
小首を傾げるカイトに、ローレンスは苦々しい視線を送る。
「確かに、僕たちは一度人間から見捨てられた。――それでも、誰かを守るのは僕たちの本能みたいなものだ。少なくとも、僕には逆らえなかったし逆らおうとすら思わなかった」
それに。とローレンスは続ける。
「今、“首都”で生きている人々は、守る価値のある人間だと思っている。――少なくとも、僕は」
そう言って彼はちらりと隣に立っている巨体を見上げる。ゲンジは横目でローレンスを見て、ただうなずいた。
――その場にいる“兵器”たちも、お互いに顔を見合わせてはうなずきあう。
「……へぇ、」
そんな彼らの様子に、カイトはつまらなそうに息を吐き出す。