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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Chapter3,『正義の基準』
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68,

 睨みつけてくるイツキに、カイトは目を向けた。


「流石、お見通しってわけ」


「胸糞悪い性格してるお前ならやりかねないだろ」


 カイトは、やれやれと言わんばかりに肩をすくめる。


「ひっどい。ほんとはさ、もっと秘密裏にやるつもりだったんだ。……アズマがここの中に入ることさえできてしまえば、後はアズマをマークにしてどうとでも忍び込めるからね。寝込みでも襲ってグサリ。とかさ。まあ、こんなに早く見つかるのは想定外」


 そう言うと周りを見回す。


「錚々たる顔ぶれだね〜。見たことあるアーティファクトだらけ。おまけに――首都大元帥までいるのか」


 苦笑いして、カイトは天音に目を落とす。


「まあ、と言っても狙うは修繕師だけどね」


 その声に、天音の肩がビクリと震える。その表情はいつもの通り無表情だったが――僅かに強張っているのが、普段の彼女を知っている者にはわかった。

 珍しい、怖がっているときの顔だった。



「――いい加減にしろ」



 そんな彼女の様子を見て、低い声がうつむきがちに呟く。不意に後ろから聞こえたその声に、イツキはカイトから注意を逸らさないまま様子を伺う。

 ――ローレンスの緑色の目が、恐ろしいほどの冷たさを孕んでカイトを睨みつけていた。


「先生から、手を離せ」


「んー。ここで、はい。と言う愚か者がどこにいるのやら」


 カイトは飄々と言う。ローレンスが一歩前に出た。


「こんなことが、人を守るために作られた俺たち(アーティファクト)のすることか!?」


 珍しくいつもの冷静さを失ったローレンスが声を荒らげる。呆れたような顔をして、カイトは首を傾げる。


「人を守る。ねぇ……」


 彼はふっと鼻を鳴らした。あたかも嘲笑うかのように。


「最初の目的はそれだった。そうなるように、僕たちはできているから。でも、先にそれをやめさせたのは――人間だった」


 カイトの口角がついっと上がる。その目は昏い色をしている。


「アズマも言ったけどさ、人間ってのは傲慢で身勝手で自己中だ。勝手に作って守れって言って、殺し合えって言って。挙句の果てに、戦争をしなくなったら捨てるんだ」


 カイトが身じろぎをする。天音は、自分の首に冷たい感触が走るのを感じた。また近づいてくる“死”に、心臓が嫌な音を立てる。


「ここまでされて、守ろうとは思わなかったな、流石の僕でも。……君は違うんだ」


「ああ、違うな」


 小首を傾げるカイトに、ローレンスは苦々しい視線を送る。


「確かに、僕たちは一度人間から見捨てられた。――それでも、誰かを守るのは僕たちの本能みたいなものだ。少なくとも、僕には逆らえなかったし逆らおうとすら思わなかった」


 それに。とローレンスは続ける。


「今、“首都”で生きている人々は、守る価値のある人間だと思っている。――少なくとも、僕は」


 そう言って彼はちらりと隣に立っている巨体を見上げる。ゲンジは横目でローレンスを見て、ただうなずいた。

 ――その場にいる“兵器”たちも、お互いに顔を見合わせてはうなずきあう。



「……へぇ、」



 そんな彼らの様子に、カイトはつまらなそうに息を吐き出す。

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