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『ダッ!!』
その姿を捉えた瞬間、イツキは足元に落ちていた天音のアーミーナイフを拾い上げると、一瞬でその男の前に踏み込んで振るう。
しかし、
「いいの?」
その男が、どこからともなく取り出した短剣を天音の喉に突きつける。イツキはナイフを男の鼻先で止めた。
「君のナイフが僕に届くよりも先に、この子の喉が裂けるかなぁ。なんてね。――あ、そっか。いずれにせよ、君が触ったらこの子は死んじゃうよね」
「――お前のそういうところが心底嫌いだ。カイト」
「えー、久しぶりに会って随分なご挨拶だな。『死神』くん――いや、イツキ」
にこりと微笑むカイトを、イツキは苦々しげに睨めつける。しかし、人質を取られている手前、数歩後ろに飛び退った。
「そっちこそ、いきなり現れたと思ったらこれか」
「へへ、いいでしょ」
呆れ返ったイツキの言葉に、カイトは自慢げに言う。
「アズマと僕はもともと同じ“モノ”だからね。お互いの居場所を行き来できるように、ちょっと細工してるんだ。便利でしょ?」
「……趣味が悪いな。自分の部品からアーティファクトを作り出す技術は健在……やっぱり、その猫は“分身”か」
イツキはカイトを真っ直ぐに睨んだ。
「おい、イツキ……。これは、いったい」
睨み合うイツキとカイトの様子に、アキラがしびれを切らして尋ねる。周りの“兵器”たちも呆然とイツキを見つめた。
「――こいつは、元北方軍の『Ⅲ型』アーティファクトだ。旅商隊に紛れて“首都”に潜り込んでいた」
「こ、こいつがっ……!?」
ゲンジが驚いたように呟く。この場にいる大半の者にとって、この情報は初耳だ。
「……北方軍側の、」
ローレンスが呟いた言葉に、アキラはふるふると首を左右に振った。
「いやいや、こんな奴見たこと無いぞ」
「それはそうだろうね」
アキラの言葉に、うなずいたのはカイトだった。
「滅多に人の目につかない仕事してたから。僕も生憎、君のことは知らないし。……むしろ、イツキと知り合いなのがおかしいくらいだよ」
そう言って肩をすくめて見せる。そして、彼はアズマを見た。
「遅くなってごめん。大丈夫?アズマ」
「大丈夫じゃあないよぉ。危うく『死神』に殺られるとこだったよぉ」
アズマはそう言って、“兵器”たちの間をすり抜けてカイトの足元にすり寄る。カイトは苦笑した。
「君を失うのは嫌だな」
「ほんとにねぇ。――もう少しでボクたちの目的を達成できるって言うのに」
そう言って目を細めるアズマ。その言葉に、
「……目的――?」
首筋にナイフを当てられたままの天音が囁くような掠れ声を漏らす。そんな彼女を見て、カイトはくすっと笑った。
「そう。端的に言うと、邪魔者を消しに来た」
「やっぱり……目的は修繕師の暗殺か」




