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「自分たちの勝手な都合で作って、壊して、放ったらかしにして。――しかも、百年もたった後にアーティファクト同士で殺し合いまでさせるんだ。理不尽極まりない」
“兵器”たちは声も出さずにただその言葉を聞いている。天音は手をキュッと握った。若干震える指先から、僅かに血の気が引く。
アズマの言葉は、天音が常日頃から思っていることだった。
もちろん、“兵器”たちも周りの人間も、誰もそんなことは言わない。だから尚更アズマの言葉は天音の心に深く刺さった。
「ボクたちは別に、アーティファクト同士で殺し合いがしたいんじゃない。……何ならキミたちにも仲間になって欲しいくらいで。絶対、人間がいないほうがボクらは幸せになれるんだ」
誰も動かないその空間の中で、不意にアズマは立ち上がると――天音の方へ歩いていく。
前に立ったイツキは、動くことなくその行く手を阻んだ。
「お前は何をしにここに来たんだ――?」
イツキの硬い声がロビーに響く。天音はそんな彼の背中を呆然と眺めた。
「ここで、一番重要な人間を――殺しに来た」
「……まさか、」
ローレンスはそう呟いて後ろを振り返る。そこには、この“首都”の首長――大元帥である的場がいた。
とっさにゲンジとアキラが彼を庇うように前に出る。
そんな彼らの動きに、アズマは首を傾げた。
「なんで?なんで守ろうとするのさ。――守る必要なんて無いじゃん」
「人間を守ることは、僕たちの使命です」
アズマに答えたのはローレンスだった。アズマとは違う、明るい色をした緑の目は冷たくアズマを見据える。
「僕たちの存在理由は人間を傷つけることじゃない。そんなこともわからないのか」
低い声には怒りが滲んでいる。唖然と口をつぐむアズマに、ローレンスは冷ややかに言った。
「捕らえます」
その言葉に、“兵器”たちは一斉にアズマの周りを取り囲む。相手はたかが猫一匹。しかし、厄介なアーティファクトだった。
「……」
アズマは目を丸くしたまま絶句する。が、しばらくして静かに呟く。
「へぇ。キミたちは大馬鹿者だ」
次に目を上げたとき、アズマの顔には再びあのニチャアっとした笑みが浮かんでいた。
「ボクが、敵地のど真ん中にひとりで来た。とでも?」
「――え?」
その言葉に、“兵器”たちは動きを止める。
「それは、どういう……」
「言ったでしょ?ボクとカイトは一心同体だって、」
アズマの声が、やけにロビーに響いた。その残響が鳴り止む前に、
「まずいっ、」
イツキがアズマから目を離して後ろを見る。そこには先程と変わらず天音が立っている。
しかし――
「っ、あ」
その蒼い目は恐怖で大きく見開かれ、
「はじめまして……でもないか」
――その後ろに立っている男が、にこやかに鮮やかな緑色の目を細めた。