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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Chapter3,『正義の基準』
64/476

64,

 天音はポーチからハンカチを取り出し、それを使ってアンドロイドの体から静かにねじ巻きを引き抜く。


「……これと同じものを、百年と少しくらい前に見たことがある。“大戦”末期だったな」


 アンドロイドの体を挟んで、天音の向かい側からそのねじ巻きを見つめるイツキ。その表情は苦々しい。


「とあるアーティファクトのパーツの一部で……、多分今回の件の原因であることは間違いない」


 そう言うと、イツキはおもむろにハンカチの端を引っ張る。天音の手からハンカチとともに、ねじ巻きが滑り落ちる。



『カラン、』



 軽快な音を立てて、それは天音たちの横の床に転がった。


「……」


「というわけで、――出てきたらどうだ?」


 イツキは立ち上がってそのねじ巻きを睨んで呟く。天音は何かを悟ったように、立ち上がって同じようにそれを見下ろす。――もちろん、イツキの言葉に対する返事はない。

 と、イツキが右手にはめた黒い手袋を外した。


「答えろ。じゃなきゃ、素手で触る」


 イツキが腰を折る。長い指が、ねじ巻きに伸びて――触れるか触れないかの、その刹那、



『タンマっ!ここで死ぬのは嫌だっ、』



 ――焦ったような声が聞こえると同時に、パッと手品かなにかのようにそのねじ巻きが床から消えた。



<><><>



 この様子を見ていた“兵器”たちが、にわかにざわつく。


「……やっぱりな」


 イツキがひとり冷静に呟き、足元に現れた小さななにかを睨みつける。天音は彼の後ろで目を見張った後、首を傾げた。


「こ、れは……」



 そこにいたのは、黒いツヤツヤした毛並みに長い尻尾、尖った立ち耳を持った――猫だった。


「あっぶね〜。『死神』なんかに触られたら、さすがのボクでもひとたまりもないね」


「猫が、喋ってる……」


 天音が呆然と呟く。その猫は、天音を見てニチャアっと笑う。


「大正解だったね、お嬢さん。その博学、キミが“首都”の修繕師リペアラー?ちょ〜っと焦っちゃった上に、あっけなくバレちゃった」


 クツクツと笑う猫を、天音はぽかんと見つめる。天音の前に立っているイツキが、冷静な声で言う。


「お前、――()()()の部品の一部だろ?」


「お!ご明察。――流石は、カイトが“戦友”って言ってただけあるね」


 その言葉に、イツキはあからさまに顔をしかめる。天音が聞いたことのある名前に目を丸くした。


「ということはやはり……、あなたはあの旅商隊キャラバンの?」


「それも正解。ボクはアズマ。カイトのお目付け役……いや、カイトがボクのお目付け役?まあどっちでもいいや――ボクとカイトは一心同体なんだから」


「どういうことですか?、先生」


 突然の出来事に、困惑した表情のローレンスが天音を見る。その横には、突然現れた猫を不気味そうに眺めるゲンジとアキラ。そして、この状況への対応に困る“兵器”たちが、棒立ちになってしまっていた。

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