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――そんなローレンスのさらに後ろで、アキラは再びキャラバンの男に話しかける。
「でもすごいっすね、今のアンドロイドって。俺たちよりもずっとメカメカしいや」
「むしろ、皆さんみたいに人間らしく作る技術がないんです」
男は弱々しく笑う。
「なにせ、もう百年も前に失われた技術ですから。単純な作業とか人間のアシストとか、今の人間が一から作ることができるのはそんなモノばかりです。感情も、単純なものしか組み込まれていないし」
「んー、そうなんすか。――でも、」
アキラは天音が解体しているアンドロイドを眺める。その表情は、角度的に男からはよく見えなかった。
「そのほうが、いいのかな。――俺たちみたいに戦うしか能がないんじゃなくって、もっと人の役に立てる」
「……」
男は言葉を掛けることができない。しかし、アキラはすぐにニカッと笑って男を振り返る。
「なーんて!まあ、新しいものがいいのは当たり前っすよ。俺たちなんて、ちょっとした傷も直してもらうのが大変で。古い型番だとほら、予備パーツとか技術とか無いと」
そう言ってアキラは、肩をすくめた。
「いいな〜。アーティファクトは替えがきくなんてよく言われるけど、今のああいう機械のほうがもっと永く働けるんだろうなぁ」
「――パーツ、?」
不意に、アキラと男の会話が止まる。天音が声を上げたからだ。ロビーがしんと静まり返った。
「――外からのハックは、暴走させることしかできない。でも、内側に潜り込んだら……?」
そう呟くやいなや、天音は勢いよくアーミーナイフを動かす。いつも以上に荒さが目立つその手つきは、しかしすぐに止まった。
「――イツキさん、」
天音は、何故かイツキの名を呼んだ。ロビーの隅にひっそりと立って一部始終を眺めていたイツキは、彼女の声に歩み寄ってくる。
「なんだ」
「……」
天音は、黙ったまま膝立ちになってイツキのマントの裾を引っ張る。それにつられて、彼は天音と同じようにアンドロイドの横にしゃがんだ。
「これ、見覚えとか……ありませんか?」
「――え、」
アンドロイドの腹部――ちょうど別のパーツに隠れて見えなかった部分を指さして、天音はイツキを見上げる。彼女の手元を覗き込んで、イツキは目を丸くした。
「どうして、そう思った……?」
「これ、北方軍製のものです」
――天音が指さしていたのは、小さなねじ巻きだった。
黒い金属でできたそれは、頭の部分に細かい装飾がされていて……所々に緑色の宝石が嵌められているのが見える。
「現在の金属部品に使われているのは、およそ九割が《セイレント鉱》です。――今でこそ、“首都”は世界最大の《セイレント鉱》の産地ですが、“大戦”当時は南方軍側の領土であった《南シレア山脈》の特産品でした。だから……、これみたいな黒鉄製の部品は、“大戦”以前の北方軍でしか作られていません」