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ガヤガヤと騒がしいのは、境界線基地一階のロビーだった。
本来とても広いはずのその空間は、ベース中の“兵器”たちが集まっているせいでかなり手狭に感じる。
「お!先生」
集まった彼らの中からゲンジのだみ声がした。どうやらロビーの中心で数人の“兵器”たちと一緒にいるらしい。天音が彼らに近づくと、周りに群がった“兵器”たちが道を空けた。
「先生」
歩み寄った天音に、ゲンジのそばに立っていたローレンスが声をかける。
「これが?」
天音が彼を見上げると、ローレンスはうなずいた。
「はい」
――そこにいたのは人型のアンドロイドだった。とは言っても“兵器”とは違い、合成皮膚はなく回路や電子部品がむき出しの状態……現代の技術で作ることのできる、一番良い型のアンドロイドだった。
「“壁外”西側の市場で売られていた、一般家庭用のものなんですが、」
ローレンスの言葉に天音はうなずく。
「ここ十年でつくられた量産品――ああ、国外産のアンドロイドですね」
ゲンジたちにがっしりと押さえつけられて床にへばりついているそれを、天音はしげしげと観察する。
蒼色の目が、獲物を捉えた猫のように大きく見開かれていた。
「どうにかなるか?先生」
ゲンジが途方に暮れたように天音を見る。
「こいつ、結構力が強いんだ……っ!」
時折起き上がろうともがくアンドロイドに、周りの“兵器”たちも困ったように顔を見合わせる。
天音はこくんとうなずいた。
「ちょっと待ってください」
それだけ言うと、天音はアンドロイドに目線を合わせるように顔を床すれすれまで近づける。人口水晶製の目は虚ろに天音の瞳を見返した。
「……」
天音はただひたすらにアンドロイドの目を見つめて――やがて、ぽつりと呟く。
「動くな」
その瞬間、電子音が響いてアンドロイドの動きが止まる。天音は起き上がった。
「完全に電源が落ちたので……もう放しても大丈夫ですよ」
「っはぁー!やれやれ……」
その言葉に、ゲンジたちはアンドロイドから離れる。天音の言ったとおり、それはピクリとも動かなくなった。
「大丈夫とは思うのですが、再起動すると暴れるかもしれないので、活動が止まった状態で原因を調べます」
「ありがとうございます。助かりました、先生」
ローレンスがほっと息をつく。人差し指でモノクルをそっと押し上げた。
「強制終了のコマンドも効かなかったので、一時はどうなるかと思いましたが」
「外部からの通信はほとんど受け付けていませんでしたね。でも、あの子の意思というよりは――外部から何かしらの操作を受けていたように思えました」
天音は首筋に手を当てる。
「リモートコントロール、ハッキング……可能性は無限にありますが、あれはまるで――」
天音はそう呟いて、すぐに頭を横に振った。ローレンスを見上げる。
「所有者に話を聞きたいですね。どんな状況だったか知りたいです」
「彼を売っていたキャラバンなら――あっちに」
ローレンスは天音の要望にロビーの隅を指差す。男がひとり、“兵器”たちに囲まれて立っている。
天音はその男に近づいた。