59,
「――あいつら、終わったな。腕の一本や二本、失くなっても不思議じゃない」
「ローレンスさんのお説教で修繕とか……。ほんとにありそうで洒落になりませんね」
ローレンスに連れて行かれる“兵器”たちの列を眺めながら、天音とイツキはヒソヒソと会話する。
「お前が死ななかったことだけが、あいつらにとって唯一の幸運だろうな」
イツキはそう言ってため息をつく。
と、不意に天音が顔を上げた。
「――そういえば。ローレンスさんが言っていた“お客様”って……?」
「僕のことかな」
突然後ろから声がして、天音はびっくりして振り返る。
「ま、的場さん?」
「やあ。――ものすごく、愉快な事になっているね」
そこにいたのは、普段首都中枢塔の最上階以外ではまず見かけることのない人物――的場 茜だった。
唖然とする天音に、的場はイタズラが成功した子供のようにくすくすと笑う。
「ふふ、驚きすぎだね。女史」
「え、な、なんでここに?」
天音の言葉に、的場は不満そうな顔をする。
「だって……女史、一週間経ってもこの前の件の釈明をしに来ないんだもん」
流石にこれ以上は待てなかった。と、的場は不機嫌に眉を寄せる。天音はぐっと言葉に詰まった。
「――すみません。忘れてました」
「ははっ。そーだと思った」
的場はしゅんとなった天音を見て、また笑う。
「まあ、そんなことは実質建前で、本当は久しぶりにベースに来たかっただけなんだけど」
「……」
へらりと笑う的場を、天音はキッと睨みつける。
「――ウザっ、」
「辛辣だなぁ」
くすくすと笑いが止まらない的場に、天音は呆れながら尋ねる。
「大元帥ともあろう方が――まさかひとりで来たわけじゃないでしょうね」
天音の脳裏に、元老院の阿久津の顔が浮かぶ。勝手に出かけているとすれば、この前の天音のように怒られるのは確定だ。
「もちろん。みんなに心配はかけたくないからね」
そう言って的場は少し辺りを見回して、苦笑いする。
「セナトスのひとりのヨシュアと一緒に来てるんだけど……やっぱり、君と顔を合わせるとなると気まずいみたい。どっか行っちゃった」
「ヨシュア……?」
聞き覚えのない名前に、天音は首を傾げる。的場は少し逡巡した後、首を横にふった。
「いいや。こっちの話」
そう言うと、的場はまた天音を見る。
「それよりも、せっかくだから例の件について聞いてもいい?」
「うっ……」
天音はあからさまに嫌そうな顔をする。ちらりと後ろに立っているイツキを振り返るが、無反応な彼に天音はため息をついて、渋々的場を見上げた。
「――工房で」