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「っ――もらったあああ!」
「ガーッハッハッハ、甘いわっ!」
豪快ながなり声の後、耳をつんざくような音とともに激しい風があたりに吹き付ける。修練場の周りに植わっている背の高い木が、幾本かメキメキと根本から折れるのが見える。
「わぁ?!」
「ちょ、将軍っ」
周りでそれを観戦していた“兵器”たちは、その衝撃に倒れそうになりながらもどうにか体勢を保つ。
アーティファクトでそれなのだから、この衝撃波を人間が食らったらひとたまりもない。
「わああああっ!」
――そう。入口のそばの石段に腰掛けてこれを観戦していた修繕師なんかがいい例だ。
「おわ?!先生、すまないっ」
「「先生?!」」
軽やかに宙に浮かんで後方に吹き飛ばされた天音に、この爆発を引き起こした張本人であるゲンジと周りのアーティファクトたちは目を剥く。
――ぅあ、流石に死ぬ……
一方、このままでは凄まじい速度でベースの壁に叩きつけられることになるであろう天音は、思わずぎゅっと目をつぶる。
しかし、壁よりも先に――
「何やってるんだ、お前は」
柔らかくなにかに受け止められて、頭上から呆れたような声が聞こえる。天音は恐る恐る目を開けて顔を上げる。
「……し、死んだかと、思いました」
天音を受け止めたのは、見回りから戻ってきて偶然修練場前を通りかかったイツキだった。後ろから抱き上げるように持ち上げたままの天音の体を、彼はそっと地面に下ろす。
「一体、何が起きたらこうな、……」
イツキはそう言いながら顔を上げて、すぐに言葉を切る。修練場にいるメンツを見て、そして根本から折れ曲がった木を見て、察したようにひとりうなずいた。
「ああ――。そういう、」
「いや、悪かった悪かった。――先生、大丈夫か?」
イツキの前でぼーっと呆ける天音にゲンジが近づく。天音ははっと顔を上げて、ゲンジに対して首をブンブン振ってうなずいた。
「大丈夫です。幸い」
「おっさん、あれどうすんだよ。……ローレンスに怒られるぞ」
折れた木を眺めてイツキはため息をつく。
「ろ、ローレンスさんに、お、こられ……」
「お前じゃない」
先日のローレンスがトラウマになったのか、天音がビクリと震える。イツキが呆れたように、彼女の頭を後ろから人差し指の背で軽く叩く。
「……まずいなぁ」
ゲンジは遠い目をする。ローレンスとの付き合いが長いせいで、怒ったときの彼がどれほど恐ろしいかをゲンジは誰よりも知っている。
「いやしかし――そうだなぁ。見つかるより先に、直しておけばバレんだろ」
しかしすぐにゲンジはニカッと笑った。彼が振り返ると、一緒に模擬戦をしていたアーティファクトもコクコクとうなずく。
「いや無理だろ。何本倒れてると思ってんだ」
「ガーッハッハッハ!舐めるな!何本あろうが、地面にぶっ刺して誤魔化すくらい簡単よぉ」
ふんぞり返って笑うゲンジに、イツキは呆れ返ってため息をつく。
「――脳筋め」
イツキの言葉は丸々無視して、ゲンジはいそいそと折れた木に近づく。しかし――
「巫剣先生。ここにいたんですね」
「うぁ、」
「……最悪」
ちょうどその時、天音とイツキの後ろから、今一番現れてはいけない男の声がした。