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「アーティファクトの軍勢が現れました!速やかな退避をお願いしますっ」
“壁外”地区の西側。“首都”最大の商隊市場に、大声が飛び交う。
理由は明白。首都中枢塔から派遣された役人たちが、市民の避難を開始していた。
そんな喧騒の中、ひとりだけ逃げもせずに旅商隊の装甲車の陰でのんびりと煙管をくゆらせている男がいる。
「随分派手に出たね。カイトらしくないや」
彼の足元で惰眠をむさぼっていたアズマが、のそりと起き上がる。その言葉に、この襲撃を引き起こした張本人であるカイトは苦笑した。
「そうだね。でも、敵の手のうちは見ておきたいじゃん?」
ほら来た。と、カイトは『遺物境界線』の方を見る。大勢の“兵器”たちが右往左往しているのが見える。
「――あれ?戦いに行かないのかなぁ」
「行かないんじゃない。あれは、行けないんだ」
アズマが首を傾げると、カイトは笑う。愉快そうな笑みだった。
「あのマザーも、“兵器”たちも、敵の位置が補足できないんだな。――へえ、案外弱いところがある、と」
カイトは目を細める。アズマは、ふぅん。と鼻を鳴らすと“兵器”たちの様子を目で追う。
「となると、先にあの壁にボクたちの軍勢が着くかな」
「まあ、そうなるだろう、……」
しかし、カイトはふとボーダーを見つめると、言葉を切る。
「?――どうしたの、」
アズマもボーダーを見つめて――すぐにカイトが何故黙ったのかを悟った。
――“兵器”たちの混乱が……なくなった?
アズマは大きな目を更に見開く。ボーダーのそこかしこにいた“兵器”たちは気がつくと姿を消し、僅かに残った者たちも皆、こことは反対側――南東の方向に走り去っていく。
「見つけたってこと、か……?」
カイトが唖然と呟く。その声にアズマは彼を見上げた。
「――遠隔じゃ見つけられないってだけで、見つけることが不可能ってわけじゃないだろ?」
「そうだが――いくらなんでも早すぎる。マザーには見つかると思っていたが、目視で見つかるかも怪しいステルス性の高い特殊部隊を送り込んだんだ。……そう簡単に見つかるわけが無い、はず」
眉根を寄せるカイトに、アズマはパチパチと瞬きをする。
「そーなると、“兵器”がボクたちの知らない観測機器でも持ってるのか?――でも、ここまで高精度な索敵を搭載した装置なんて、現代じゃもうつくれないよなぁ」
「索敵……」
この言葉に、カイトはある一つの可能性を思いつく。しかし、それを口に出す前に――
「ん?なんだぁ」
“兵器”たちの動きを探るために感度を最大まで上げていた耳が、微かな物音と声を捉える。アズマがキョロキョロとあたりを見回して――その視線は頭上で止まった。