53,
『姿が見えないと思ってたら……、いったい、今どこにいるんですか!?オーバー』
「ぅ……。それについては帰ってからちゃんと話しますので、今は話を聞いてください、」
天音は苦い顔をして続ける。
「先程の警報の対象が判明しました。ベース第一ハッチから南東に五百メートル前後。五十体ほどのアーティファクトの軍勢です。オーバー」
『……イツキもいないと思ったらぁ。彼の索敵ですか。オーバー』
「う〜……。その点につきましてもちゃんと説明します。オーバー」
憂鬱そうな顔をして天音はイツキを見上げる。彼は肩をすくめてみせた。
『はぁ……。わかりました。とにかく、先生もイツキも早く帰ってきてください。五十くらいなら簡単に終わると思いますが、“死体”の回収してもらわないと困るんで。オーバー』
「了解。――今すぐ戻ります」
天音が通話を切った瞬間、ボーダーの向こう側で小さな爆発が起きたのが見える。早くも交戦が始まったようだ。
それを視界の隅に捉えると、天音は的場を振り返る。
「というわけなので、今日はこれでお暇します」
「いや。まあ――それはいいんだけど……」
的場は呆気に取られたように天音を、そしてイツキを見る。天音はバツが悪そうに目をそらす。
「これに関しましても、とりあえずまた今度で……」
「お前な。さっきから、いくつの案件を先送りにした」
イツキは呆れたように天音を眺める。天音はジトッと彼を上目遣いに睨んだ。
「――とにかく、帰りますよ」
未だに呆気に取られる元老院を置き去りにして、天音はイツキを連れて執務室を出ていこうとする。
「待て」
「――なんですか?」
しかし、イツキに止められ、天音はイライラと彼を振り返る。
「この街の混乱を逆走するのは無理だ。――こっちから行くぞ」
イツキはそう言うと、天音の腕を掴んで出入り口とは反対側にある大きな窓に近づく。
「……何を、」
するつもりですか。
という天音の言葉は、天音を抱き寄せて窓を開けるイツキの行動によって途切れる。
イツキが窓枠に足をかけた。
「――君、まさか……」
セナトスたちはしんと静まり返り――的場は遠い目をしてイツキと彼にしがみつく天音を見る。
「ちょ!?ま、待ってください!まって、待ってって!」
「うるせぇ。さっさと戻るんだろうが。このくらいで死なね―だろ、別に。――舌噛み切りたくなかったら、口を閉じてろ」
珍しく悲鳴を上げる天音の抵抗を一蹴して――イツキは塔の窓からひらりと飛び降りた。
「っ―――!」
びゅうっ、と耳元で凄まじい風切り音がする。声にならない悲鳴を上げる天音。
刹那の落下の後、イツキは一番近くにあった教会の尖塔のてっぺんに、危なげも無く着地する。
「だから言っただろ。この程度じゃ死なない」
しがみついて荒い息をする天音を、イツキは呆れたように見下ろす。天音はキッと彼を睨めつけた。
「馬鹿なんですかっ!?バカバカっ、大馬鹿者っ!」
「はいはい」
声を荒らげる天音を軽くあしらうと、イツキは彼女を抱えたまま民家の屋根づたいにボーダーを目指して走り始めた。
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