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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Chapter3,『正義の基準』
52/476

52,

 執務室の面々に緊張が走る。


「敵襲!?」


「マザーからの連絡は?」


「いやっ、“兵器”に指示を出すのが先だ!」


 セナトスの三人が焦ったように言葉を交わす。そんな様子を見て、的場は静かに口元に人差し指を当てた。


「――静粛に」


 その一言に、三人ははっと口を閉ざす。

 的場は部屋の隅に置かれた立体映像投影機ホログラムスクリーンを起動させ、映し出された“首都”の街並みに指を滑らせる。


「優先は人民の安全の確保だ。ひとまず、『遺物境界線レリックボーダー』の内側六百メートル圏内にいる住民と商隊を全面退避させる」


 できるね。と的場は三人を見つめる。その視線に、阿久津が右耳のインカムに指示を入れ始めた。

 瀬戸とルイスが、再びスクリーンを覗き込む。


「茜様、敵の位置って、」


「まだマザーから連絡は入っていない」


 瀬戸の問いに的場は首を横に振る。

 と、



「あー、もう。なんでこんな時に……」



 そう、苦々しく呟きながら、的場の横をもうひとりが通り過ぎる。


「女史……?」


 声をかける的場をよそに、天音は部屋の壁の大部分を占める大きな窓に駆け寄ると、黙ったままボーダーに目を凝らす。けたたましい警報とは裏腹に、その景色には何の代わり映えもない。


 ――戦闘は始まっていない……


「仕方ないか、」


 それを確認するやいなや、天音は右のポケットから何かを取り出す。


「イツキさん、索敵エネミーサーチってどのくらいの範囲で使えますか?」


「修繕師、殿?」


 虚空に向かってそう問いかける天音を、振り返った瀬戸が不思議そうに見つめる。すると、



「……今ここから視ろと?」



 セナトスとも的場とも、もちろん天音とも違う低い声が聞こえ――


「「?!」」


「女史、?」


 気がつくと、天音の隣にもうひとり背の高い人影が立っていた。



 的場は目を見開いて天音を見るが、彼女はそれを無視して再び窓の外を見る。


「戦闘が始まっていないということは、境界線基地ボーダー・ベースのメンバーも敵を補足できていないということです」


「――三,四十キロが限度。警報が鳴ったってことは、ギリギリ範囲内ではあると思うが、」


 それだけ言うと、イツキは窓の外に目を向けて、すっと目を細める。



「だ……誰なんだ、いったい!――」


 ルイスが珍しく大声を上げるが、そんな彼を天音が睨む。


「少し黙っていてください。観測が狂います」


 その声に、ルイスは気圧されたように立ちすくむ。

 しばらく、息を殺すような沈黙が辺りを支配した。



「……見つけた」



 しばらく経って、不意にイツキが囁くような低い声で言う。天音は彼を振り返った。


「どこに?」


「――ここ」


 イツキはセナトスたちが覗き込んでいるスクリーンに歩み寄ると、ボーダー外の一点を指し示す。


「ボーダーまではだいたい五百メートル前後、この前と一緒だな。数は五十」


「第一通用口(ハッチ)の側ですね」


 天音はそう言うと、腰に下がっているケースの中から大振りな無線機トランシーバーを取り出し口元に持っていく。


「テステス。……こちら巫剣。ローレンスさん、応答願います」


『――へ?巫剣先生!?』


 トランシーバーから聞こえる少し音割れした声は、ローレンスのものだった。

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