51,
天音の言葉に――セナトスたちが顔を上げる。
「なに?」
「『Ⅲ型』ってことは――まさか、特殊な能力を持っているんですか!?」
瀬戸の言葉に天音はうなずいて、あのアーティファクト――“カイト”に関する情報を、そのままセナトスたちに開示する。
――無論、誰からの情報であるのかは伏せて、だが。
「つまり……そのアーティファクトは心を読む、みたいなことができると?」
「はい。昨日、まんまと引っかかってきましたので間違いないです」
阿久津の問いに対する天音の答えに、的場とセナトスの面々は驚き――ポケットの中のイツキは『ぐふっ』とくぐもった声で吹き出した。
「――あんまり、無茶はしないでくれないかなぁ、女史」
的場が呆れたように言う。天音は彼を思いっきり睨みつけた。
「その無茶をさせているのは、どこの誰と心得ておられて?」
「いや、まあ――そうなんだけどさぁ……」
困ったように頬を掻く的場をダメ押しとばかりにもう一度睨みつけた後、天音は表情を険しくする。
「能力もさることながら、民衆に紛れるステルス性もかなりのものです。――念の為、相手のアーティファクトたちが何かしらの組織を組んで動いていることも想定して、紛れ込んでいるアーティファクトの目的が諜報や工作あるいは……暗殺であることも視野に入れて今後の方針を固められたほうがよろしいかと」
「――なるほど、ね」
的場はそう呟くと、何かを思案するように顎に手を当ててうつむく。
そんな彼に、天音はふうっと短く息を吐き出した。
「以上が私からのご報告です」
「……ありがとう」
的場は顔を上げて、天音に微笑みかける。天音はそんな彼から目をそらした。
「仕事ですので」
「えらいなぁ。……やっぱり、女史はなんでもできる」
笑ってそう言うと、的場は天音に近づいて、その小さな頭をいきなりワシャワシャと撫で回す。その様子に、セナトスたちはお互いに顔を見合わせた。
「――子供扱いはやめてください」
しかし、天音は的場の手を頭上で掴んで止める。その表情は険しい。
「私はまだ、あなたのこと嫌いですから」
「……」
天音の言葉に、的場は悲しげに目を細める。そんな様子に、阿久津がつかつかと二人に歩み寄ってくる。
「巫剣殿っ、流石に今の発言は……!」
「いいんだ、なるみ」
天音の態度に激高する阿久津を、的場は静かに止める。阿久津は感情を持て余したように天音を睨んだ。
「まだ、嫌いなんだ。僕のこと」
的場の穏やかな声に、天音は彼を見上げる。
「――為政者と名のつくものは、みな嫌いです」
天音の低い声に、的場はまた悲しげに微笑む。そっと彼女の頭から手を離した。
「ごめんね……」
「あなたが悪いわけではありません。――強いて言えば、いつまで経っても過去から抜け出せない私が悪いんです」
天音は視線を斜め下に逸らす。刹那、その空間は静まり返った。
「――それは……、」
違う。と、的場が天音の言葉を否定しようとした。
――その時、
『緊急事態、緊急事態……』
敵襲を伝える警報が、この場にいる全員を現実に引き戻した。