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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Chapter3,『正義の基準』
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50,

「ふふ。賑やかだね」


 不意に声が聞こえて、部屋の中はまたたく間に静まり返る。

 見ると、窓際の小さな扉からこの部屋の主が顔を覗かせていた。


 途端に、セナトスたちがその人物に向かって敬礼をする。


「ありがとう。顔を上げて」


 その男――的場は大きな窓の前まで出てきて微笑む。セナトスたちが顔を上げたところで、的場は言う。


元老院セナトス諸君、集まってくれてありがとう。突然呼び出してすまなかったね」


「いえ……、そのためのセナトスですので」


 ルイスの答えに、的場は笑みを深めた。そして目線をずらすと、セナトスたちから一歩下がったところに立っている天音を見る。


「来てくれてありがとう。――久しぶりだね、巫剣女史」


 優雅に微笑む的場。しかし……天音は不機嫌に目を細める。



「――はあ?なにが『久しぶりだね』ですか。手紙を寄越したと思ったら無茶ぶりばかり……。どれだけ鬼畜なんですか?あなたは、」


「「な!?」」


「ちょっ、無礼だぞ!」


 いきなり的場に対して抑揚のない声で不満を捲し立て始めた天音に、元老院は驚愕する。阿久津がキッと天音を睨んだ。


「おいっ、この方を誰だと思っているんだ!?いくら貴女が修繕師リペアラーであるからといって、大元帥様への不敬な言動は――っ、」


「ふははっ!いいよいいよ、なるみ」


 早口で怒鳴る阿久津を、的場はおかしそうに笑って止める。阿久津は困惑したように的場を見た。


「いや……しかし、」


「いいんだ。――ふふ。久しぶりに、女史からのお小言を聞いたなぁ」


 笑いっぱなしの的場に、天音はどこか困惑したように眉を寄せる。


「文句を言われて喜んでる――。相変わらず、的場さんは変態ですね」


「はは……。喜んでいる、というよりかは懐かしんでいるというかなんというか……。女史こそ、相変わらず人の感情の機微に疎いね」


 天音の言葉に微笑んでこそいるが、的場は少し悲しそうだった。天音はますます奇妙なものを見るような目で的場を見る。


「まあ、いいんだ。こっちの話だから……。それより、本題に入ってもいい?」


 的場は微笑んでいるが、その目は真剣だ。

 天音は表情を消して的場を見つめると、おもむろに彼の前に歩み出た。


「結論から申し上げると、お話のとおりアーティファクトが紛れ込んでいました」


 天音は的場に、一枚の紙を手渡す。――とあるキャラバンのチラシだった。


「頂いたチラシの商隊に、確かにアーティファクトが紛れ込んでいる隊がありました」


 的場は受け取ったチラシを眺めて、ルイスを手招きで呼んで渡す。セナトスがそれを確認してる間に、的場は天音に問いかけた。


「どんなアーティファクトか、説明できる?」


「第一次機械戦争以前につくられた、いわゆる“旧型機”で――『Ⅲ型』のアーティファクトです」

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