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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Chapter3,『正義の基準』
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49,

 ――塔の中は、外側の見た目通りとても広い。

 廊下を真っすぐ進んだ先には円形の大広間があり、最上階まで吹き抜けになっている。広間の周りを部屋がいくつもぐるっと取り囲むように配置されていて、それが積み重なるように階になっている。


 行き交う職員たちの間をすり抜けて、ルイスは天音たちを連れて、広間の一角を陣取る大きな昇降機エレベーターに乗り込む。



「……修繕師殿は的場様と直接お話されたことはありますか」


 昇降機が僅かに揺れながら上階を目指す。不意にルイスがそんなことを尋ねた。


「大元帥の就任式典のときと、それ以前に何度か」


「そうですか――」


 ルイスの声色は静かだったが――何故か含みがあるように感じられた。彼の問いの真意を測りあぐねて怪訝な顔をする天音を、ルイスは見下ろす。


「いえ。――修繕師というのは、元老院セナトスに任せられないような仕事を託され、的場様が最上階の執務室にお呼びになるほどに信頼できるものなのか。と思いまして」


 藍色の瞳が、ひたと天音を見据える。『お前は何者なのか』と問いかけられたような気がした。しかし、天音はどうでも良さそうに答える。


「さあ……、どうなんでしょうね」


 その言葉を最後に、昇降機が鈍い音を立てて止まった。




「執務室はこちらです」


 大きな窓が並ぶ廊下。その一番奥にある大きな木製のドアを、ルイスは押し開ける。

 ルイスの後に続いて、天音も無言で部屋の中に入る。部屋に入って一番に、“首都”全体を見渡せる大きな窓から、雨に濡れる街並みが見える。

 後ろでドアが音もなく閉まった。


 殺風景な大きな部屋には、天音があったことのある人物たちがいた。


「あ!ルイスさん」


 真っ先に声を上げたのは、あの元老院セナトスの少年だった。


「――紘汰。俺じゃなくて、」


 呆れたようなルイスの声に、瀬戸はハッと姿勢を正して天音の方を見る。


「すみません。お久しぶりです、修繕師殿!」


「……お久しぶりです」


 瀬戸の威勢の良さに気圧されながら、天音は呟くように答える。すると、瀬戸の後ろに立っていたもうひとりがルイスを見る。


「ルイス、ユークレクスとイチカワさんは?」


「お二人とも別の公務でいらっしゃいません。なるみさんこそ、今春の旅商隊キャラバンの監督はよろしいのですか?」


 ルイスの問いに、阿久津は鼻を鳴らす。


「下の名前で呼ぶなとあれほど……。まあいい。一段落したから現場に任せてきた。それに――今回の件はキャラバンに関わることだ。聞かないわけにはいかないだろう?」


「なるほど」


 相変わらずの薄笑いを浮かべたルイスを見て、阿久津はあからさまに嫌そうな顔をする。しかし、すぐに表情を変えると、彼女は天音を見た。


「――失礼した。巫剣殿といったな。ご無沙汰している」


「お久しぶりです。阿久津さん」


 天音の答えに、阿久津は微笑む。


「名前を覚えていてくださったんだな。光栄だ」


 どこかの誰かと違って。と再びルイスを睨む阿久津。当のルイスは、ニヤリと笑う。


「ふっ、下の名前を覚えているだけいいではありませんか」


「他のメンバーの名前はフルネームで覚えているのにかっ!?」


「――まあまあ……落ち着いて」


 かっと目を見開く阿久津を見てルイスは愉快そうに笑い、そんな2人を瀬戸がなだめすかす。


『……なんだよ、うるさいな、』


 ポケットからは、外の状況が見えないイツキの不満げな呟きが聞こえてくる。

 天音は、この混沌とした状況にため息をついた。

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