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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Chapter3,『正義の基準』
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48,

「何をしている」


「れ、レイファン様……、何故、こちらに――」


 塔の方から現れたのは、ここで働く全職員の上司であり――首都大元帥直属の部下でもある元老院セナトスのひとりだった。

 ルイス・レイファンという名を持つ、常に薄い笑みを浮かべているこの青年は、今のこの状況を見て、更に口角を上げる。


「駄目じゃないか、その方は大元帥様のお客人だ」


「へ?」


 門番は改めて修繕師を振り返る。しかし、彼女は――何故か訝しそうな顔をしていた。


「昨日突然決まったことだから、連絡が行き届いていなかったか……。まあいい」


 ルイスは、どこか芝居がかった仕草でため息をつくと、修繕師に歩み寄る。


「失礼いたしました。監督が行き届いていなかったようで」


「はあ……」


 目の前に立つルイスを見上げて、修繕師はきょとんと目を瞬かせる。


「さあ、こちらに。大元帥様がお待ちです」


 ルイスはそう言ってにっこりと微笑むと、修繕師を連れて歩いていってしまう。


「――なんなんだ……?」


 状況がよく飲み込めないまま、門番の男はひとり取り残された。



<><><>



「あの、」


「いや、本当にすみませんでした。――なにせ、急だったもので」


「……いや、あの」


 止まること無く喋り続ける元老院セナトスの男に、天音はただただついていくことしかできない。

 門に着く前に外してポケットに入れておいた精霊護符タリスマンを、天音は無意識のうちに握りしめていた。


『苦しい……』


 イツキから抗議の声が聞こえ、天音は慌てて手を少し緩める。


「そろそろいらっしゃるかと思って、待っていて正解でした」


「いやあの、私――あなたとお会いしたこと無いんですけど」


 修繕師リペアラーとして働き始めて六年経つが、あの門番の男にも止められてしまうほど、天音の顔は首都中枢塔の役人たちには知られていない。それなのに何故、初対面にも関わらず、この男は修繕師だと名乗った天音のことを信じたのか。


「ああ――失礼しました。セナトスのルイス・レイファンと申します」


 ルイスは立ち止まって優雅に敬礼する。天音は彼の様子をじっと観察した。


「レイファン――ということは、あなたは『高貴なる人々(アリストクラシー)』の……?」


「ええ。しがない元没落貴族一家の末息子ですよ」


 ルイスはそう言ってにこやかに微笑む。


 ――金髪碧眼が一般的なアリストクラシーだが、彼の髪色は宵闇のような藍色だった。青い目も、暗い色をしているため、名前を聞かなければ元貴族の家の出だとは誰も思わないだろう。


「貴女のことは聞き及んでいます。――“首都”防衛の第一人者だとか」


「……でも、顔を見ただけではわからないでしょう?」


 再び歩き始めたルイスを追いかけながら、天音はまた尋ねる。気がつけば塔の入口まで来ていた。

 屋根の下に入って傘を閉じる天音の隣で、同じように傘を仕舞いながらルイスはくすくすと笑う。


「大元帥就任式典のとき、お見かけしましたので。お話してはいませんが、俺はこう見えても記憶力がいいんですよ」


「――なるほど。そういう」


 納得したようにうなずく天音に、ルイスは塔の中の長い廊下を指し示す。


「では、参りましょうか」

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