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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Chapter3,『正義の基準』
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47,

『ここ、貴族街か……?』


 不意に聞こえたイツキの声に、天音は傘の中から街並みを見上げる。


 “壁外”地区を通り過ぎて、更にポリティクス・ツリーに近づくと、街の様子は様変わりする。

 街のごちゃつきがなくなり、整然と並ぶ白い壁の家たちと、所々にそびえ立つ尖塔が荘厳な雰囲気を醸し出している。


「そうとも言えますね。――ここは中枢区ヌークリアスです」


 この地区は、“壁外”と壁によって仕切られていて、“大戦”中、アスピトロ公国で台頭していた貴族の末裔――今では『高貴なる人々(アリストクラシー)』と呼ばれる人間たちや、裕福な大商人などが住んでいる。


『アスピトロの本陣が置かれてた街だろ?、ここ。――随分、様変わりしたんだな』


「もしかして、来たことがあるんですか?」


 天音は少し驚いてイツキを見る。


『一応、アスピトロ公国の隊に所属してたから、何回か。貴族街だったのは変わんないけど……だいぶ質素になったな。前はもっと、ゴテゴテした飾りがついた趣味の悪いところだったが』


 イツキの言葉に、天音は不思議な気分になる。


「――百年も前の様子なんて、私には想像出来ないですね」


『まあ、そうだろうな。見た目はだいぶ変わってるし』


 ぱちぱちと目を瞬かせながら街を見上げる天音のことが、見えているのかいないのか。イツキはぽつりと呟く。


『――ああ、そういえば。そもそも、首都中枢塔なんて無かったし』


「え……、そうなんですか?」


 イツキの意外な言葉に、天音はポリティクス・ツリーを見上げる。ヌークリアスに建っているどんな尖塔よりも高いそれは、灰色の雲の下でもなお圧倒的な威圧感を持っていた。


「ああいう建物が、もともと建ってたんじゃないんですか?」


『一応、大公の城があったけど……、“大戦”で綺麗サッパリなくなったからな。俺が最後に見たとき、ここらへん一帯は更地だった』


「……」


 天音は、そのときの様子を想像しようとする。

 更地――建物もなにもない、不毛な場所なのだろう。そう、ちょうど……


 ――『遺物境界線レリックボーダー』の外側みたいに


『――封印が解かれて、初めてあの塔を見た時には、正直引いた。あんな戦争から、たかだか100年であんなモノ建てるなんて……人間って、行動力の塊だな』


 呆れたような――それでいてそれを肯定するような。不思議な響きを帯びたその言葉は、意外にも天音の胸にストンと収まった。


「そうかもです……。人間は、ほんの少ししか生きられないのに……それなのに、何故か生き急いでるんです」


 天音は、まるで独り言のようにそう呟く。イツキは何も言わない。



 雨の降る中枢区ヌークリアスを、二人は首都中枢塔を目指して歩いた。



<><><>


「この先は、許可された方しか入ることができません」


 ――ポリティクス・ツリーの外門。門番ゲートキーパーに止められる、傘をさした人影がいた。

 その人物は億劫そうに傘の陰で外套のフードを脱ぐ。さらりとした長い銀髪が背中に溢れだす。


境界線基地ボーダー・ベースより参りました。『指定修繕師スペシファイ・リペアラー』の巫剣 天音と申します」


 深い蒼色の瞳が、門番の男をひたと見据える。その不思議な、しかし静かな威圧感に、男は少したじろいだ。


「事前に、大元帥様にご連絡は差し上げてあるはずですが」


「いや……そう申されましても。それを証明できるものがないと」


 門番は困ったように頬を掻く。修繕師リペアラーを名乗る少女は不機嫌に眉をしかめた。


「待っていると言っていたのに……大元帥(あの男)は」


 大層機嫌が悪くなった目の前の少女に、門番はどうしたものかと顎髭を撫でる。



 ――その時、


「何をしている」


 後ろから聞き知った声が聞こえ、門番は飛び上がりそうになった。

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