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「……ふ〜ん? つまり――え、どういうこと?」
「世界で一番最初に造られたアーティファクトがイツキで、《精霊神》信仰のモデルはイツキで、『古代戦争』の最後に人間の大量虐殺をしたのもイツキってこと」
「いや天才か!? 俺のシオンは天才だな!?」
アキラは騒がしく叫びちらしながらシオンの頭をグシャグシャと撫でている。それに呆れた視線を送ってアザレアはイツキに目をやった。
「そんな大層なこと、よく今まで隠していましたわねぇ……」
「――ごめん」
明るい陽の光がさす境界線基地のロビー。イツキからすべてを聞かされた“兵器”たちは驚きを隠すことができないが、各々に納得したようだ。
「歳上なのは知っていたが、まさか数千年単位だとは思っていなかったぞ? ガーッハッハッハッハ!」
「先生も、イツキの同型機の一部なんですよね。不思議な話ですけど……先生の“精霊の加護”の由来がわかって、なんだか納得しました」
大口を開けて笑うゲンジ。ローレンスの言葉に、イツキの隣に座っていた天音はうなずいた。
「正直、あまり自覚はないんです」
「当然ですわ。だって、先生は先生ですもの。数千年前のことなんて、先生にはなんの関係もありませんものね」
アザレアの微笑みは優しい。その横では、ようやっとシオンを撫でるのをやめたアキラがイツキを妬ましそうに睨んでいる。
「ったく、なんにも言ってくれないなんて水くせーぞイツキ。俺なんてお前に隠し事したことねーんだからな?」
「話さなかったのは悪かったと思っている」
「たしかに、突然敵に連れて行かれたときは本当に驚きましたからね……」
ローレンスはアキラの不満げな言葉に同調して、ちらりと視線を上げた。
「まあ、イツキを襲ったひとが何故かここにいるわけですが」
「何千年越しの喧嘩の途中だったんですよね。カリストさん、イツキとは仲直りできたんですか?」
天音も同じようにそこに立っている人物――カリストを見上げる。彼はきまり悪そうに頬をかいていた。
「いや、仲直りも何も」
「仲直りはしたぞ。なあ、カリスト」
しかし、カリストの言葉尻を取ってイツキは飄々と嘯く。カリストはぽかんと目を瞬かせて、慌てたように両手を振った。
「そっ……な、仲直りなぞとあまりにもおこがましいことなのでっ!? 俺が許しを乞うたに過ぎません……適当なことをおっしゃらないでください、イツキ様!」
「敬称はいらないっつってんだろうが。俺も謝ったし……誤解を招く言い方はやめろ」
ギロリと睨め上げるイツキの話をカリストは聞いていない。ぎゃあぎゃあ言い合う二人にゲンジは首を傾げた。
「イツキの元臣下なぁ……敵だっていうからどんな奴かと思ってみれば、ただのアーティファクトの兄ちゃんじゃねーか」
「イツキというよりかはルナのために造られた専属機です。そのアーティファクト単体では足らない能力を補うためであったり精神衛生上の問題であったり……造られる理由もその後の関係性も様々ですが、製造過程でプログラムされる『一体のアーティファクトのために造られた』という初期データが人格の根底を構成しています」
「つまり、アキにいにとってのあたしみたいな存在ってこと?」
シオンの問いに天音は大きくうなずく。カリストはイツキに迫るのをやめて、ちらりとシオンの方を見た。
「……専属機」
「あたしはアキにい――このオレンジの髪のおにーさんの妹なんだ。制作者がアキにいのためだけに造った同型機」
「俺はイツキ様の同型機ではないが……そうか、同じような立場か」
ふむ。とうなずくカリストにシオンは興味津々で話しかける。生まれたときからたった一人のためだけに存在することを許されたアーティファクト――お互いに通じ合うところがあるようだ。
「――こちらに対して悪意があるわけでは無いんですね、彼は」
「あくまで君主のことを探すためにあの御方に従っていたに過ぎないそうです。“精霊の加護”のリスクも大体排除したし、一緒に戦う仲間だと思っても問題は無いと思います」
ローレンスは天音の言葉にうなずく。高窓から差し込む淡い冬の光が、まるでスポットライトのように賑やかな風景を照らし出していた。
「アキにいは世界で一番のアーティファクトなんだよ!」
「イツキ様のほうが素晴らしいアーティファクトだ。あれは数千年前の……」
「待てカリスト。お前一体何を話そうとしている」
「――チッ、シオンと馴れ馴れしく話しやがって」
「また、騒がしいひとが増えましたわね〜やれやれですわ」
天音は眩しげに微笑む。一瞬、脳裏にあの神殿の風景が――笑い合う人々とアーティファクトと、隣で柔らかく細められる紅い瞳が翻った。