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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Chapter3,『正義の基準』
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45,

「あら、天音先生!おはようなのですわ〜」


 次の日の朝早く。天音は《ひととき亭》にいた。他に場所がなくて座った4人がけテーブルの窓際では、ここ数日の天気とは打って変わって雨音が聞こえる。


 コーンスープを一匙掬ったところで、かけられた声に天音は顔を上げる。


「おはようございます。アザレアさんとアキラさんと……イツキさん」


 淡い空色のドレスを着たアザレアを先頭に、アキラとイツキがいた。もはや見慣れた3人組だ。


「ご一緒してもいいかしら?」


「いいですよ。他に空いてないですし」


 天音の返事に、アザレアはいそいそと天音の向かいの席に腰を下ろす。アキラがどこに座ろうか迷っていると、天音の横にイツキが黙ったまま座り、フードを取る。

 その様子に、アキラは意外そうな顔をしながらも、アザレアの隣に座る。


「あ!いらっしゃぁい!」


 しばらくして、看板娘のローリエが注文を取りに現れる。少し高いテーブルの下から、ひょこりと顔を覗かせるその様子に、アザレアがくすりと笑う。


「ワタクシはいつものでいいですわ」


「あ、俺も」


 ローリエはアザレアとアキラの答えにうなずくと、イツキを見る。


「イツキさんは?」


「ん――」


 ローリエに問われて、イツキはちらりと天音の手元を見る。イツキの視線に気づいた天音は、スプーンを持った手を小さく動かす。


「美味しいですよ?」


「じゃあ、もらう」


 イツキがそう言うと、ローリエは嬉しそうに笑う。


「それねっ、ローリエがつくったの!まってて、すぐ持ってくるからぁ」


 お下げ髪を揺らしながら駆け去るローリエを、アキラがニコニコ微笑みながら見る。


「かわいいなぁ」


「あの子は、世界の人間の中で一番かわいいですわぁ」


 うなずくアザレアをちらりと見て、イツキは呟く。


「あんな小さな子供が、料理それつくってるのか……」


「マスターの料理は――人間向きではありませんから」


 パンをちぎりながら、天音はなんとも言えない表情をする。


「アーティファクトが美味しいと思える燃料(食べ物)の加工は、すごく上手なんですけど……人間が食べれるものは、正直ローリエさんが作るのが普通に美味しいです」


「――散々な言われようだな」


 イツキの言葉に、天音は苦笑した。


「本人には内緒です」



<><><>



「――おまちどーさま、です!」


 しばらくして、ローリエが両手に盆を持って戻ってくる。


 アザレアは天音と談笑しながらフォークを動かし、アキラもその会話に混ざる。そんな様子を横目で見ながら、コーンスープに口をつけたイツキは、不意に視線を感じて顔を上げる。


「……なんだ」


「!」


 机の縁からじいっとこちらを見つめていたローリエが、イツキが顔を上げたことに驚いて目を丸くする。


「え、と……。美味しい?」


「?……ああ」


 イツキの答えに、ローリエはほっとしたように表情を緩める。


「イツキさんって――なにか、好きな食べ物とかある?」


「食べ物に関する好き嫌いは、最初からプログラミングされていない」


 ローリエは、不思議そうな表情を浮かべる。


「じゃあ、好きな食べ物ないの?」


「これと言って、好きなものも嫌いなものもないな」


「んん〜、そっか」


 むむっ。と眉を寄せるローリエを、今度はイツキが不思議そうに眺める。


「なにか問題でもあったか?」


「!――んーん、ちがうのっ」


 ローリエは慌てたように首を横に振る。頭の動きに合わせて、お下げ髪がゆらゆらと揺れた。

ローリエ・アルカノス(9)

種族:人間

スグルの一人娘で、《ひととき亭》の看板娘で、料理が得意。持ち前の明るい性格が、“兵器”たちの日々の癒やしとなっている。天音によく懐いていて、“おねえちゃん”と呼んで慕っている。


スグル・アルカノス(31)

種族:人間

ローリエの父親で、ベースの食堂で料理長をしている。人間用の料理は苦手だが、燃料の調理は得意。ローリエに対して親バカなところがある。

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