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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Chapter3,『正義の基準』
44/476

44,

 イツキの言葉にうなずいて、天音はひらりと右手を上げる。


「ルクス」


『ココ!』


 天音の呼び声に、部屋の暗がりからルクスが飛んできて、天音の右手にとまる。


「首都大元帥 的場 茜様へ、『指定修繕師スペシファイ・リペアラー』巫剣から。()()()についてのご報告をしに、明日ポリティクス・ツリーに伺います」


『イマカラ?』


「そう。遅くなって悪いけど、すぐに返事をもらって帰ってきなさい」


『ワカッタ』


 天音が立ち上がって窓を開けると、ルクスは暗い空に向かって飛び去った。夜風が天音の髪を揺らす。


「明日、行くなら護衛につこう」


「――明日は街の警護だと言っていましたよね」


 天音はイツキを横目で睨む。イツキは肩をすくめた。


「街の警護は俺だけの仕事じゃない。ひとりくらいいなくても、バレないだろ。それに――今、この状況でひとりで出かけるのがどれほど危険か、分かってるよな」


 天音を見上げるイツキの目は、鋭い光を帯びていた。天音はしばらくその目を見つめていたが、やがてため息をつく。


「――分かっています、そのくらい」


 あからさまに視線をそらした天音を、イツキの紅い目が静かに見つめる。



『マスター!』


 不意に、開け放しの窓から機械音声が響く。天音は黙ったまま、窓の方に手を伸ばす。ルクスが伸ばした手に飛び移ったのを確認して、天音は窓を閉めカーテンを引いた。


『イツデモイイガ、デキルダケ、ハヤイジカンニキテホシイ。サイジョウカイノヘヤデ、マッテイル』


「珍しい。政務室に来るようになんて。――ありがとうルクス。もういいよ」


 手のひらに乗ったルクスの頭を、天音は指先でそっと撫でる。ルクスは小首をかしげた後、ひらりと飛び立って――突然イツキを見る。


『マダイタノカ?テツメンピ』


「あぁ?」


 上から見下されて、イツキは不機嫌にルクスを見る。ルクスは――どこか愉快そうに見えた。


『ジブンガ、テツメンピダト、ジカクシテイルノダナ!カンシン、カンシン!』


「――ざけんな、テメェ」


 イツキの剣呑な声に、ルクスはケタケタと笑いながら、今度こそ部屋の奥に消える。


「――なんなんだ、あいつ」


「ごめんなさい。ほんとに……」


 天音はうなだれる。何故かルクスは、イツキに対しての風当たりが強い。

 ルクスが残した妙な空気を破るように、イツキは立ち上がる。


「どうせついていくなら事情を知っている奴の方がいいだろうから、俺が行く。間違っても、ひとりで出かけようとかするなよ」


「分かっています、そのくらい。……よろしくおねがいします」


 ぼそぼそと言って、天音はイツキを見上げる。


「それでいい」


 イツキはマントのフードを被ると、部屋を出ていった。

 天音は小さく息を吐き出す。



 ――迷惑、かけちゃう


 本当は、心配されないくらい自分が強ければ良かった。誰も巻き込んでしまわないくらい、賢ければ良かった。でも……


 ――これが嫌じゃない私は、多分とっても愚か者だ……


 心のどこかに、心配されて、大事にされて――嬉しいと思ってしまう天音(自分)がいた。

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