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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Chapter13,『ギフト』
430/476

430,

「……制御?」


「そのままの意味合いだ」


 カリストは自分の手のひらを見つめる。


 ――あ、


 天音もつられてその右手に目を落として驚く。色々なことがありすぎてまるで気づかなかったが――よくよく見れば、彼の両手は人工皮膚(スキン)が貼られていない金属の骨格がむき出しになっていた。その見た目は、まるで義手をしているようだ。


「主がいた時は、自分の力を自分のものとして使えた。我が君のために働くのが使命だったから」


「……」


「でも……主もまた、“太陽の御方”が壊れたときに消えた」


 語り口は静かなのに燃えるような感情がこもっている。苦しみ、怒り――憎しみ。それは自分の主人が消えたことに対してのものなのか、あるいは――


「俺を、たった一人の臣下であった俺を置いて何処かへ行ってしまった。俺はきっと――我が君にとって不必要な存在になったんだ」


「……カリストさん、」


 なんと声をかけて良いかわからなかった。天音にはなにもわからない――数千年前の出来事だなんて、カリストの主人の気持ちだなんて。


「俺の力は我が君のものだ。でも……我が君はいなくなって、力の使い所も、何故生きているのかもわからなくなって……」


 低く声が掠れる――まるで、泣いているみたいに。食いしばられた歯。


「戦っていると……アーティファクト相手でも人間相手でも、見境がなくなる。際限なく何もかも傷つけてしまう。我が君の指示通りに――我が君の思いのままになることをずっと考えていたから、敵も味方ももうわからない」


「だから、ここに?」


 力なくうなだれた沈黙は肯定だった。目の前の黒髪を、天音は棒立ちになったままただただ見つめることしかできない。

 同情じゃない。哀れみじゃない。嘆きじゃない。怒りじゃない。天音にはなにもしてあげられない――彼はきっと、天音が何を思うことも望んではいないだろうから。


「――ひとりでいれば、誰も傷つけない。だから、俺は……」


「ずっと、ここでひとりで?」


 言葉の終わりを掬い取って、天音は小さくうなずく。カリストはそれを上目遣いで眺めていた。


「あなたはすごいですね」


「……?」


 不思議そうな黒い瞳が二つ、天音を見上げている。天音は静かに微笑んだ。


「どれだけ永い年月が経っても、あなたの主人はたった一人なんですね。そうでなければ、あなたはこうしてひとりぼっちになろうとは思わなかったんでしょう?」


「……違う」


 しかし、天音の言葉にカリストは頭を振る。その表情はさらに苦しく歪んでいて――天音は溢れ出る苦悩に目を見張った。


「そんな、美談じゃない。俺は……俺はまた(・・)守れなかったんだ……また、我が君を、」


「どういうことですか……?」


 絞り出すような唸りに天音は首を傾げる。しかし、その問いの答えは――



『緊急事態! 総員、直ちに出入り口を塞げっ、』



 こちら側からは開かない、扉の向こうから聞こえたけたたましい叫び声にかき消された。



<><><>



「……まったく、」


 いつもは気をつけているのに、声にこもる怒気を今回ばかりは抑えることができない。眼前にひざまずくイオの肩がびくりと揺れた。


「随分と騒がしいと思ったら……とんだ失態じゃないか。ねえ? エウロパ」


「申し訳ありません……っ」


 イオの隣でうずくまる彼の頬には裂傷が走っている。さっき蹴飛ばしたせいだろうか――しかし、臣下の失敗に指導(・・)をするのは上に立つ者の務めだ。


「こんな分岐(ルート)は《未来》には存在しない……やはり、“ギフト”も彼も不確定要素か」


 震えるガニメデの頭越しに見えるのは豪奢な玉座。グリスに塗れたそれは――空っぽだった。


「“ギフト”はおろか、彼まで逃げ出すなんて。私はほんの少し外出していただけだったはずだ……君たちは、ここまで役立たずだったのかい?」


「わっ、我が君!」


 千切れた鎖を眺めて呟くと、イオががばりと顔を上げる。その大きな目が潤んで見えるのは錯覚か。冷ややかな視線で見下ろせば、肩を戦慄かせながらも彼女は口を開く。


「必ず! 必ず逃げ出した者たちは捕らえるのです、ですから――ぐあっ!?」


「ああ、そうだろうね」


 彼女の頭を踏み潰す。足元に広がる赤い髪と、呻き声。足を退かせば彼女は苦しげに咳き込む。


「必ず捕らえろ……失敗は許さない」


「「「御意」」」


 放り出すような言葉とともに広間を後にする。


「……ふざけやがって」


 思わず零れ出た口汚い罵りを置いて歩く。高い靴音に混じっていくつもの切迫した叫び声がこだました。

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