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「――ということは、人間に攻撃を仕掛けてくるアーティファクトもまた、“兵器”のように隊をなして動いている、と……?」
「あくまでも想像の域を出ない話だが。――一回の襲撃で、あれだけの数のアーティファクトがそれなりに統率性をもって襲ってくるんだ。ありえない話じゃないだろ」
それに。
イツキは天音を見つめる。その真剣な色に、天音はもう一度起き上がった。
「カイトは、確かに諜報員として優秀だった。でも、奴の強みは敵から情報を引き出すことだけじゃない」
「――と、いうと?」
訝しげな天音の問いに、イツキはすうっと目を細めた。
「敵方に潜り込み、自由に動き回ることができる。――奴は暗殺が得意だった」
「!?――そ、れって、」
天音は、その蒼い目を見開く。
「“首都”の誰かを――暗殺しに……?」
「これもまた、想像でしか無い。でも、カイトならできる」
天音は言葉を失う。無意識に握られた右手を、イツキだけが気づいてちらりと見る。
「“首都”の重要人物――。大元帥でしょうか……。それとも、元老院、?」
「もちろん、その線もある」
イツキの肯定に、天音は困ったように目線を彷徨わせて、最後には顔を伏せた。
「……でも、そうとは限らない」
しかし、イツキの予想外の言葉に、天音はもう一度彼に目線をやる。
「――?」
「外部のアーティファクトを、どんな奴がまとめているのかは知らない。ただ……、もし、俺がそいつだったら、真っ先に殺すのはひとりだな」
「誰を――?」
天音が問うと、不意に機械ランプの光が揺れる。イツキの紅い目に、ゆらりと光が映った。
「お前を」
「――ぇ、」
工房の中は、再びしんと静まり返る。
「どう……して、?」
固まったままの天音が、掠れた声で尋ねる。
「“首都”を侵攻するにあたって、一番邪魔なのは“兵器”だ。――アーティファクトはアーティファクトでしか殺せない現在の状況下では、な」
淡々とした、無機質な声。天音は声も出せずに、ただその言葉を聞いていることしかできない。
「“兵器”と違って、外部のアーティファクトたちには『再構築製造機』がある。よって無限に戦力を保つことができる。その点では外部のアーティファクトのほうが優勢だ。……修繕師さえいなければ」
「――私、が」
「リサイクラーは、確かに無限に戦力を拡大させることができる。でも、リサイクラーによって作り変えられたアーティファクトの体は、オリジナルのものより遥かに動きが劣る。だが、修繕はアーティファクトのオリジナルをただ直すだけ。非効率的だから戦力の量は少なくても、質は遥かに高い」
イツキは口を噤む。じっとしていた天音は、やがてふっと息を吐き出した。
「そのとおりに――思えてきました」
「あくまでも仮説のひとつに過ぎない。が、“首都”の人間を皆殺しにしたいのなら――これが一番手っ取り早いと、俺なら思う」
考え込むように俯いていた天音は、顔を上げる。
「いずれにせよ、旅商隊に紛れ込んだアーティファクトの正体は分かったんです。後は大元帥に報告して、様子を見るしかありませんね」
「それが妥当だろうな。――諜報だとしても暗殺だとしても、警戒するに越したことは無い」




