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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Chapter3,『正義の基準』
42/476

42,

 天音は起き上がって外套を脱ぐ。足元に放られてくしゃりとまるまったそれは、天音が指先でそっと触れると、モゾモゾと自ら動いて部屋の隅に置いてある開け放しのキャビネットに収まった。

 その様子をしばらく眺めて、イツキは再び天音を見る。


「――《深層の証言ディープ・テスティモニィ》は相手の深層心理を引き出すことができる能力だ。嘘も隠し事も何もかも、あいつには通用しない」


「あの目眩は……あの人の能力だったんですね」


 天音は、あの緑色の目を思い出す。ゾッとするような気持ちの悪さを思い出して、天音はぶんぶんと頭を振った。


「すごく、危なかったです。――本当のことを話してしまうところでした」


「だから近づくなって言ったんだ」


 イツキは呆れたようにため息をつく。天音は、気まずそうに目線を彼から逸した。


「まさか、『Ⅲ型』のアーティファクトだったとは……」


「“大戦”当時でも、『Ⅲ型』アーティファクトは俺とあいつを含めても数人しかいなかったから覚えている。正直、敵に回したい男では無いな」


 イツキは苦い顔をする。


「味方としてはめちゃくちゃ優秀だった。相手方――だからつまりは南方軍だが、そこから情報を集めてくるのは、ほぼ間違いなくあいつだった。敵の内部情報を手に入れるのは容易じゃないが……あいつはそれが一番得意だったから。――俺も散々心を読まれてきたし。マジで……うざかった、アレは」


 そこでふと、イツキは天音を見つめる。


「?」


「そういえばお前……、よく本当のことを話さずに持ちこたえたな」


 イツキの不思議そうな顔に、天音は目を瞬かせる。


「あいつの能力は、例外なく深層心理を引き出すことができる。だからあいつの持ってくる情報に間違いは無かったんだが……」


「もしかして、私のプロテクションの影響でしょうか?」


 天音は少し考えた後、そう呟く。


「ほんの僅かに、プロテクションが使われた感じがあります。――プロテクション・タイプ相手ということは、多分無意識のうちになにか命令したんだと思います」


「――俺に対してと同じか」


「恐らく」


 天音の答えに、イツキはのけぞるようにソファーの背にもたれかかる。被っていたフードがパサリと落ちた。

 天音も再びソファーに横になって、しばらく工房は静寂に包まれる。


『ジジッ』


 機械ランプだけが、微かに音を立てた。



「……何が、目的なんでしょう」


 不意に聞こえた天音の声に、イツキは顔を上げる。横になったまま、目線だけでこちらを見つめる天音と、目が合った。


「――人に紛れ込むのは得意な奴だから、それこそ偵察とか間諜とか、か」


「でも……国家や軍隊みたいな組織じゃないと、そういうことをする意味って無いですよね」


 天音の蒼い目が、ぱちぱちと瞬きをする。


「それはそのとおりなんだが。なんというか――アーティファクトって、すぐに群れたがるモノだからなぁ」


 イツキは言葉を選びながら呟く。


「作られた段階でそうなるようにできてるんだよな、きっと。“兵器”なんてその最たるものだ」

ついにユニークPVが1000人を越えました!

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