表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Chapter3,『正義の基準』
41/476

41,

「キミが“精霊の加護(プロテクション)”を使い始めたときは、何事かと思ったよ。たかだか、人間の小娘相手にさ」


「あのお嬢さんがつけていたブローチが、()()に似てたのさ。まあ、ありえないんだけど。――思わず、ね」


 言い訳がましく苦笑いするカイトに、アズマはふーん。と間延びした声を上げる。カイトは改めて、街灯で照らされる“壁外”の大通りを見る。


「なにか隠してたように見えたんだけど――僕のプロテクションが効かなかったってことは、嘘はついてなかったんだな……」


「――そうかな?そうとは限らないと思うけど」


 アズマの言葉に、カイトはまた彼を見下ろす。


「見た感じ、キミのプロテクションは半分もあの小娘には効いてないぞ」


「――そうなのか?」


「ボクの目を疑わないでほしいな」


 アズマの目がキラリと光る。――カイトの目によく似た色だった。


「キミの力をまともに受けて、嘘をつける奴なんていないけどさ。……半分だったら、わかんないねぇ」


 アズマの言い回しに、カイトは顎に手を当てた。


「なるほど。――()()()が僕の力の邪魔をしたのか……」


「案外、あの小娘が連れていたのが、本当にキミの旧友だったりしてな」


 アズマはニチャア、と実に猫らしく微笑む。カイトはまた苦笑した。


「そんなはずだけはないな。絶対に」


「へぇ。自信満々だねえ」


 少し意外そうなアズマを一瞥して、カイトは空を見上げる。もうすっかり、日は落ちてしまっていて――暗い夜空には、この時期になるとよく見えるようになる、赤色の星が浮いていた。



「人間に扱えるものか。あの『死神』が」



<><><>



「――ここに誰も近づけないように」


『リン!』


 『遺物境界線レリックボーダー』の内側。廊下にベルの音が響く。日はすっかり落ちて、それでも窓からはいまだに賑わう街の明かりが見えた。


『パタン……』


 木でできた自室のドアを閉めたところで、天音はようやく詰めていた息を吐き出す。彼女が左手を胸の前まで上げると、機械式のランプがぼうっと光る。

 握っていた右手を開くと、そこには境界線基地ボーダー・ベースに戻ってくる前に外套の首元から外しておいた精霊護符タリスマンが乗っていた。

 天音がもう一度息を吐くと、彼女の手のひらの上の空気が揺れて、タリスマンが姿を消す。


「随分、面倒な奴が紛れ込んだな」


 天音が目を上げると、昼間と変わらない様子で、目の前にイツキが立っていた。天音は返事もせずに、疲れ果てたようにすぐそばに置かれているソファーに身を投げ出す。白銀の髪が、くしゃくしゃと彼女の顔を覆い隠す。イツキはその向かい側に座った。


「――あの人は、いったい、」



「あいつは、“プロテクション・タイプ”のアーティファクトだ」



 か細い天音の問いに、イツキは淡々と答える。天音はのろのろと目線だけ上げてイツキを見る。


「“カイト”と呼ばれていた。“精霊の加護(プロテクション)”は《深層の証言ディープ・テスティモニィ》」


「――聞いたこと無い能力です」


「だろうな。あいつは北方軍で諜報を得意としていた。……目立たないことにかけては、奴の右に出る者はいない」

旅商隊キャラバン


“災厄”以後、各地に点々と存在する都市や街を旅して、商業をする行商人の集団。

食料品、衣料品、工芸品などの様々な品物を扱っており、都市間の交易の手段としても活用される。“首都”にも多くのキャラバンがやってくる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ