403,
『ガガガー……』
《SNOW-MAN》が近くを通り過ぎていった――と思しき機械音が聞こえる。ロビーに入ると暖かい機械ストーブの空気。
「あ、イツキ。おつかれ〜」
壁際に腰を下ろして、アキラが本を読んでいた。
「おつかれ」
「あれ? イツキ、午前中って非番だったっけ」
「午後は忙しいから代わってくれってアザレアに頼まれた。《精霊祭》のプレゼントを見繕いに行くんだと」
ローリエにクッキーの味見を頼まれてから数日。あちらでもこちらでも《精霊祭》の準備に忙しなさが迫っていた。
「ああ……あいつ毎年変なものくれるんだよな。去年はカエル柄のブックカバー」
アキラは手に持った本を持ち上げて見せる。何ともシュールな表情が印象的なカエル――が全面にプリントされた布製のブックカバーがかかっていた。
「なるほど。アザレアらしいセンスだ」
“兵器”全員では無いにしろ、先行部隊のメンバーくらいには毎年何かしら贈っているのだという。マメなところが、実に彼女らしい。
「――お前も、誰かに贈り物をするのか?」
「へ? 俺が?」
イツキの問いにアキラは不思議そうに首を傾げる。
「シオンになにかあげようと思ってる……くらいかな。あ、なに? お前も欲し「いらない」
「――んな食い気味に拒絶されるとなぁ」
しゅん、としょぼくれた顔のアキラに、イツキは鼻を鳴らす。そんな彼を横目で見て、アキラは本を置いて膝を抱えた。
「意外だな。お前がこういう世俗的なイベントに興味があるなんて」
「……別に」
「まさかお前、誰かにプレゼントでも渡すつもりなのか〜?」
アキラの茶化すような声に、イツキは無言で応える。案の定な反応にアキラは笑い飛ばした。
「いや冗談だから。そんな真面目な顔すんなって、」
「……なにを、贈ればいいんだろうな」
「………………は?」
嵌殺しの窓の外には白銀の雪景色。生憎ロビーにはアキラとイツキの二人しかいなかったため――沈黙が死ぬほど重苦しい。
「あ、」
失言に気づいた紅い瞳が大きく見開かれる。
「……違う、今のはなかったことにしてくれ」
「いやムリだろ!? 流石にバッチリ聞こえてたって」
珍しくイツキが焦ったように視線を彷徨わせる。そんな彼を、アキラは奇妙なものを見るように眺めた。
「つまりなに? 先生になにをプレゼントするかで悩んでんのか?」
「いや、だから忘れて……は? なんで相手が天音だって、」
「わかんないと思うか? ここまでわかりやすくて、むしろわからないわけがないよな!?」
アキラの驚愕に満ちた声。イツキはそれを呆けたように聞いていた。
「わかりやすい……まさか、バレたか? 天音に」
「や、それは無いと思うけど。先生って結構鈍感だし――って、そうじゃなくて」
呆れたように脱力して、壁にもたれかかり横目でイツキを見つめながらアキラは大きく息を吐きだした。
「先生に《精霊祭》のプレゼントをしたいと」
「……なにを贈ればいいのかわからない」
「これが、強くても対人経験の乏しい機械の末路か〜。なんだろう、めちゃくちゃ情けねーな」
「……うるせえ」
どこか不貞腐れたようなイツキの唸り声に、アキラは声を立てて笑う。初めて見るイツキの姿だった。
「お前ってマジで不器用だなぁ……。仕方ねえ、俺が手伝ってやるよ」
「……」
「睨むなバカ。今、ちょうど暇なんだろ? プレゼント見繕いに行こうぜ。俺もシオンの分を用意しないといけないからさ」
もちろん先生には内緒にしてやるよ。とアキラはいたずらっぽく微笑む。そんな親友の表情をしばらくじっと見つめて、
「……」
無言のままイツキは立ち上がった。