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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Chapter2,『100年の眠りの先』
4/476

4,

『オテガミ。オテガミ。“ダイゲンスイサマ”から、オテガミガトドイタヨ!』


 春の光が降り注ぐ窓辺。窓の桟に、真鍮でできた機械仕掛けの小鳥が止まった。

遺物境界線レリックボーダー』の中にある、“境界線基地ボーダー・ベース”の端の一室。ごちゃごちゃとした狭い部屋には、工業油グリスの匂いがほのかに漂っている。


 部屋の奥、薄暗がりの方からひらりと人影が現れた。


『キョウ、スゴクイイテンキ。ネエ、スゴクイイテンキ、ダヨ!』


「……そうだね。ありがとう」


 小鳥がけたたましくさえずりながら差し出した封筒を、その人物は受け取る。


「……“大元帥”、か……」


 小さく呟くと、ペーパーナイフで封を切り中身を取り出す。形式的な挨拶の言葉を読み飛ばし、その先の文面を追う。


 ――著しい戦況の悪化により、新たな戦力を投下することを決めた。


「戦力」


 呟いてみれば……その言葉の、なんと物騒なことか。


 ――そのため、貴殿には配備に先立ってその“兵器”の修繕リペアを頼みたい……



『……ネエ、オヘンジハ?オヘンジハ?』


「……自分で直したはいいけど、うるさい鳥」


 相変わらず、窓辺でキラキラと輝く“自動伝書機キャリアー・ピジョン”の真鍮の頭を指先で軽く小突く。返事なんて、決まっている。

 その人物は、古びたマホガニーのデスクに近づくと、その引き出しの中から白い便箋を引っ張り出した。


 ――お手紙、拝読いたしました


「答えは……“はい”か“イエス”か“喜んで!”、っと……」


 ――謹んで、ご依頼をお受けいたします


「……難儀な仕事ね」


 封蝋ワックスを温めながら、憂鬱なため息をひとつ。とろりと、白い封筒の上を流れる青色の蝋にシーリングスタンプを押し当てる。


「ほら、“お返事”」


 返事の封筒を差し出すと、キャリアー・ピジョンは首を傾げる。


『ダレカラ、ダレマデ?ドコカラ、ドコマデ?』


「……境界線基地ボーダー・ベース所属『指定修繕師スペシファイ・リペアラー』から、『首都中枢塔』大元帥、的場 茜様まで……。迷子にならずに、届けてきなさい」


『カシコマリ、カシコマリ!』


 キャリアー・ピジョンは手紙を受け取ると飛び去った。その小さくなる姿を目で追う。視界の端にポリティクス・ツリーが映った。


「新しい、“戦力”……」


 かの名高き大元帥様は、この後に及んでまだアーティファクトを使おうとしているようだ。



 ――『人工遺物アーティファクト


 それは今から百年も前に終戦となった『第二次機械戦争』で使用された機械兵器の総称だ。当時、世界は北方軍と南方軍のふたつに分かれて戦い……互いに、勝つためにアーティファクトを使った。

 もっとも、そのせいで世界の人口は半分に減ることになったのだが。


 しかし、その“大戦”が終戦してからおよそ五十年後の、戦線歴2070年 10月15日。終戦を境に各地に打ち捨てられていたアーティファクトたちが暴走。当時の首都に大群で攻め入り、この攻撃で首都の人口のおよそ三分の一が死んだという。


 以来、この街……正確に言うと人類そのものが、アーティファクトに怯えながら生きている。



「難儀な仕事、ね……」


 その人物は窓の桟にもたれかかって、“壁外”の街並みを眺める。キャリアー・ピジョンも言っていたとおり、いい天気だ。


「『修繕師リペアラー』も、“兵器”も……」


 窓の下を見ると、遥か下の地面で働く“兵器”と呼ばれるアーティファクトたちが見えた。彼らは、わずかに人間のもとに残っていたアーティファクトたちだ。



 “アーティファクトにはアーティファクトを”



 かつてそう言われたとおり、アーティファクトは人間には破壊できない。アーティファクトを倒せるのは同族のアーティファクトのみだ。だから、


「性懲りもなく……」


 人類はアーティファクトを使い続ける。



 難儀なものだ。“兵器”も、彼らを修繕リペアすることを専門とする『修繕師リペアラー』も。

 誰かのために戦うことのみを許された。そういう仕事だ。




『リン!』


 不意に表のベルが鳴った。その人物ははっと顔を上げる。


『先生〜!修繕師の先生、急患っす!』


 ドア越しに響く声。

 その人物はドアを開けるため、再び暗がりに消えた。

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