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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Chapter3,『正義の基準』
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39,

おまたせしました!本日分の投稿です

 しかし、いくら貴重な鉱石が採れても、機械やそれらの部品を作る技術は、“首都”ではとっくに失われていて、“首都”では機械部品の製造はできないのが現状。

 だから、旅商隊が運んでくる工業製品は、天音のような職人階層の人間だけでなく、一般の市民や中枢区ヌークリアスに住む富裕層からも高い人気があった。



「この辺りから、工業製品を売る商隊の区画ブースです。見つけたら教えてください」


『了解』


 天音はイツキに向かって囁きかける。イツキは短く返事をして、辺りに目を凝らした。


 ――こいつは……違う


 天音は他の買い物客と同じように、ゆっくりと店を見て回る。実際に品物を見て買ったりもするから、怪しまれはしなかった。おかげでイツキは、一つ一つの店の中を覗くことができた。



 しかし、そうやって探していても、ブースの広さと商隊の多さでなかなか目当てのものは見当たらない。

 結局、昼も食べずに探し続けて、日も徐々に西に傾いていく。機械式の街灯が明々と灯り始める。


「――工業系のブースは、確かここで終わりだったはずです」


 ほんの少し、疲れをにじませた天音がそう囁く。

 いつの間にか、人はだいぶ少なくなって街道は歩きやすくなっていた。街灯は、黒い装甲車にオレンジ色の光を投げる。


「いったい、どこに――」


 これだけの時間を費やしたのだ。いい加減、見つかってもいいはず。

 天音がそんな思いを抱えたまま、ふととある店を覗き込んだときだった。



『……いた』



 耳元で囁くように、イツキの低い声が頭に響く。天音ははっと顔を上げた。


「――どこ、ですか」


『ここの右隣の店。――店の前で煙管を吹かしてる男だ』


 天音は声にしたがって、横目で横の店を伺う。

 イツキの言葉通り、装甲車の前に展開された露店の前に立って、煙管を咥えている男がいた。


 ――この時期では一般的な旅装である分厚いマントのフードを被り、その隙間から覗く細い緑色の目が淡く光を反射していた。


「灰色のマントの、あの人ですか?」


『ああ』


 天音の囁きに、イツキが短く答える。


『“大戦”中、俺やアキラと同じ北方軍のアスピトロ部隊で戦ってた奴だ。――第一次機械戦争以前に作られたと、本人は言ってたな』


「じゃあ……“旧型”のアーティファクトで間違いないんですね」


『間違いない』


 天音は、怪しまれないように自然な風を装って、ほんの少しだけその男に近づく。


『っ、やめろ。あまり近づくな――』


 イツキが焦ったように彼女を止めようとするが、その時には既に、天音はその男の店の中を控えめに覗き込んでいた。

 空気に烟草の煙が混ざる。



「なにか、御用ですか?お嬢さん」


 不意にそんな声が聞こえた。男がこちらを見たらしい。

 思わず天音も顔を上げて男の方を見る。


 男と目が合った――



 ――何、こ……れ、



 その緑色の目に捉えられた瞬間、縛られたように体が動かなくなる。ぐちゃぐちゃと脳みそが掻き回されるような激しい目眩に襲われた。


「なにか、僕の店に御用ですか?」


「あ……っ、」


 ――アーティファクト(あなた)を探しにきた


 本来隠さなければならないはずの言葉が、なぜか口をつきそうになる。慌てて、ぎゅっと奥歯を噛みしめる。


「か、買い物を、しに」


「そうですか」


 天音の返答に、すうっと男の目が細まる。

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