表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Chapter3,『正義の基準』
38/476

38,

 透明感のある、深い紅。

 天音の手の上で、その精霊護符タリスマンは光を溜め込んだように淡く光った。


「どうしようかな……」


 本来、装身具であるはずなのに金具も紐もついていないそれは、身につけるには少し困った。仕方がないので、白金プラチナの台座に施された透かし彫りの隙間に、外套の首元を留める紐を通して結ぶ。


 天音はそのまま、困惑したように眉を寄せた。


「そういえば、これ――会話できないのかな……?」


『できるぞ』


 呟いた途端、頭に直接イツキの声が響く。襟元で輝くタリスマンを、天音は呆気にとられて見下ろした。


「え?」


『一応、無線機能はついている。――精度が悪いから、この距離での会話が精一杯だけど』


 便利だろう。と、どこか自慢げに聞こえる声に、天音は思わず苦笑する。


「私だけ、ひとりで喋っている頭のおかしな人間に見えないでもないですが――。まあ、いいです。じゃあ、行きますよ」


『ああ』


 イツキの返事を確認して、天音はようやく境界線基地ボーダー・ベースを出た。



<><><>



 ――その昔。


 およそ二十年に渡って、全世界を舞台に繰り広げられた『第二次機械戦争』。

 世界で最も大きな大陸、《ユーラント大陸》もまた、その戦禍に飲み込まれた。


 ここでは、大陸内を南北に分かれて国同士が争いあったが、その中でも特に領地が広く勢力を振るっていたのが、北方軍側の《アスピトロ公国》。――現在では、“首都”と呼ばれる世界最大の都市が置かれている国だった。



 そんな“大戦”終戦から、今年で百年。


 無事、春を迎えた“首都”最大の繁華街、“壁外”区域の西側には、多くの市民と旅商隊キャラバンが集まっている。


 アーティファクトたちの暴走――“災厄”が起きてから造られた都市は、多くがこの“首都”と同じように周囲をボーダーに囲まれた城塞都市だ。そして壁の外側には、人間の住むことができない不毛な土地が広がり、多くのアーティファクトたちが蔓延っている。

 そんな荒れ地を、都市から都市へと渡り歩くキャラバンたちは皆、大きな装甲車に乗って旅をしている。


 そのため、『遺物境界線レリックボーダー』の内側には、この時期になると多くの黒塗りの装甲車が並び、その手前に店を出す商人たちでごった返していた。


「――人が、多い」


 天音は、その人の多さに、思わず外套のフードを目深に被る。


『この人混みだと……目当てのものが見つかるかどうかあやしいな』


 脳内に響くイツキの声に、天音はその場で少し背伸びをする。


「あっちですね。――()()()()が何の店を出しているのか、それだけでも分かっていて良かったです」


 天音はそう呟いて、更に人で溢れかえっている場所へと足を向ける。


「相変わらず――工業系の品物は人気がありますね」



 “首都”は、荒廃しきった《ユーラント大陸》の内陸部に造られた都市で、資源が豊富であるとはお世辞にも言えない。

 それでもここまで栄えているのは、唯一、《セイレント鉱》と呼ばれる鉱石が採れるためだ。蛋白石オパールのように淡い虹色に輝くその鉱石は、その加工の簡単さと強固さから、機械部品や武器などの様々な用途に使用されていて、大陸の中では“首都”を中心とした一部の地域でしか採取できない。

 大陸の他の都市との《セイレント鉱》交易と、街を守る“兵器”達によって、この“首都”は栄えてきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ