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「えっと、つまり……その巫剣の分家の当主っていうのが、この前先生に直接葬式に出るように言ってきて――先生はそれを追い払った、と」
「この前のあの騒ぎはそういうことだったんですのね。まあ、追い出されて当然ですわ。あの人たち、先生に対してなにをしたのかまるで理解していないのだもの」
あの日――巫剣ユリアが境界線基地を訪ねてきたときに不在だったアキラとアザレアは確認するように言う。うなずくローレンスとは正反対に、天音はまだそっぽを向いていた。
「あーでもそれって、ちゃんと断ったほうがいいんじゃないっすか?」
首を傾げるアキラに天音はちらりと彼らを振り返る。ふてた表情で唇がへの字をしていた。
「だって、そのユリアって人も巫剣の分家の人たちも、みんな先生のことを本家の当主だって思ってるんすよね?」
「……」
「だったら、先生がどう考えているか話に行ったほうがいい……んじゃないっすか? 先生が巫剣家のことに関わりたくないよーっていうなら、それは言っておかないと拗れちゃいそうっていうか。まあ俺、あんまりこういうことくわしくないっすけど」
無言で微動だにしない天音にアキラは頬を掻きながら提案する。アザレアが少し驚いたように目を丸くした。
「珍しくまともなことを言うじゃありませんの。珍しく」
「強調しなくていいから! 俺は思ったことを言っただけだから」
「先生、アキラまでこんなことを言っているんですから……拗ねてないでどうすればいいか考えましょう?」
「アキラまでって……ローレン」
しゃがんで天音の表情を覗き込むローレンスにアキラはうなだれる。が、それを華麗に無視する空気の中で、天音は静かに顔を上げた。
「……どう、したらいいと思いますか?」
「そうですね――」
弱々しい声にローレンスは微笑む。
「正直、僕たちがどうにかしてあげられることじゃないんです。これは先生と先生のご家族の問題なので」
「……」
「でも、僕たちの希望を先生にお伝えすることはできますね」
しゅんと再び顔を下げてしまった天音に、ローレンスは穏やかに語りかける。天音は視線を彷徨わせた。
「この前も言いましたが、僕たち“兵器”としては先生がいなくなってしまうと困るんです。たしかに、先生に過剰な業務を任せてしまっていることはわかっているんですけど」
「そんな!? 過剰だなんて思ってないです!」
「知っていますよ。先生は嫌がらないで僕たちと一緒に――僕たちのために働いてくれています。だから、僕たちも先生がいなくなっちゃうと困るんです」
「……」
「僕たちから先生にお伝えできることはこれだけです。僕たちは先生に、家族の元に戻ってはいけないとか、ここで一生働かないといけないとか、そういうことは絶対に言ってあげられません。でも、」
わずかに切れた言葉の隙間で、鮮やかな緑の目は優しい色をしていた。
「僕たちは何があっても先生の味方です。きっとこれからも先生は、たくさん悩んで迷って――決められなくてどっちつかずの宙ぶらりんになっちゃうこともあると思うんです。でも、先生はここに帰ってきていい。ここは先生の家だし、僕たちは先生の“家族”ですから」
にっこりと笑うローレンスに天音はしばらくぼんやりと呆けて――そっと息を吐き出した。
「ありがと……ござ、ます」
「先生は、どうしますか? 僕たちはどんな決断でも応援します」
ローレンスがちらりと振り返ると、アキラもアザレアも深々とうなずく。そんな三人を見て、天音は大きく息を吸い込むと
「ちゃんと、話しに行きます。今私にできることはそれしか無いので」
勢いよく立ち上がった。




