36,
「――そういうことか」
「なんですか?放してください」
天音は横目でイツキを見上げる。無機質な紅い瞳と目があった。
「今春のキャラバンには、アーティファクトでも紛れ込んでるのか?」
「……また、カマかけですか?」
「いや。これはあっている自信がある」
イツキの言葉に、天音は必死になって動揺を隠す。しかし、イツキは言葉を続けた。
「“首都”外部からやってくる旅商隊に、アーティファクト。おまけに“兵器”を関わらせたくないとなると――自然と答えが見える」
淡々としたイツキの言葉に、天音はただ彼を見上げることしか出来ない。
「アーティファクトを壊せるのは、アーティファクトだけ。……裏を返せば、俺たち“兵器”を傷つけられるのも、アーティファクトだけ。――お前が俺たちを関わらせたくないのは、この件にアーティファクトが直接関わってくるからだ」
例えば、キャラバンに紛れ込んでいる。とかな。
「っ。――はあ、」
天音はため息をつく。
「――あなたは、エスパーか何かですか?」
「いや。どこかの修繕師様が、びっくりするほど分かりやすいだけだ」
薄ら笑いを浮かべるイツキを見上げ、天音は諦めたように目を瞑る。
「……そうです。あなたが言ったこと、全部正解ですよ」
天音は投げやりに呟く。イツキは彼女から手を離した。
「どんな奴か、目星はついているのか?」
「大元帥から大体の情報はもらいました」
いつも身につけているウエストポーチから、天音はあの封筒を取り出す。イツキはその中身をざっと眺めて呟く。
「機械系の店か。別に珍しくは無いな」
「はい。――だから、どれがそうかはまだ」
返された封筒を仕舞いながら、天音が呟く。その言葉に、イツキは彼女を横目で見た。
「――なら、俺を連れて行くのが正解だな」
「何故ですか?」
訝しげに目を細める天音に、イツキはまた少し笑って見せる。
「“首都”に侵入したアーティファクトは、十中八九“旧型機”だ」
「――え?」
天音は目を丸くする。
「“大戦”以降に製造されたアーティファクトが人間に紛れ込んだところで、“首都”に入った瞬間、すぐにボロが出て見つかるのがオチだ。でも、“旧型機”の構造は、人間とさして変わりはない。――まあ、それはお前が一番分かっていると思うが」
イツキはここで少し言葉を切る。天音は黙ったまま、彼の言葉の続きを待った。
「政府の連中、まして『遺物境界線』の関門で見つけられないってことは、“旧型機”である可能性が高い。――むしろ、ほぼ確実に“旧型機”だ」
「でも、それとあなたを連れて行くことに何の関係が?」
「こう見えて、俺も“旧型機”だ」
イツキは天音を見て、淡々と説明する。
「“大戦”中に生き残っていた“旧型機”も、そもそも総数が少なかったんだ。しかも、俺も含めて当時の“旧型機”は、ほとんど《アスピトロ公国》――かつての、北方軍側の最大都市の軍部に配置されていた」
「――あ、」
天音が、なにかに気づいたように目を開ける。
「そう。……“旧型機”だったら、顔見ればわかるんだよな。ほぼ全員、顔見知りだから」
イツキはニヤリと微笑んだ。