352,
「きゃあっ!?」
「っ、」
「なんだぁ? テメーは……」
ゲンジとローレンスがアザレアを庇って“本体”を構える。彼らからほんの数歩分離れた場所に――たった今三人を襲った人物が立っていた。
「それはこっちのセリフだ。お前ら、アーティファクトだろ」
荒野に吹く春風が、そのオレンジ色の長髪を巻き上げる。手に持った長剣がいやに眩しい。
「俺は“兵器”だ。悪いが、“首都”に近づくアーティファクトは全員ぶっ殺すことに決めている」
「“兵器”って――おい、ちょっと待て……」
ゲンジは慌てて武器を置いて敵意がないことを示そうとするが――相手はあっという間に間合いを詰めると彼に切りかかった。
「っ!」
「――よく受けたな」
金色の相貌が冷たくゲンジを見据えている。横からローレンスが放った銃弾を軽やかに避けて、彼は地面に降り立つと、すぐにまた攻撃を繰り出す。敵意があるかどうかはもはや関係なかった。
「おい……話を、聞け!」
「話もクソもあるか。所詮はアーティファクトだろうが」
全く聞く耳を持たないアーティファクトの青年に、ゲンジは額に脂汗を浮かべる。ローレンスも迂闊に攻撃が出来ないことを理解しているから動けない。
そんな中――
「ちょっと、ストップ!」
バッ! といきなりゲンジと青年の間に割って入ったのは、他でもないアザレアだった。
「お嬢! あぶねえ、」
「これを見なさい」
ゲンジが叫ぶがアザレアは彼を振り返りもしない。彼女が手に持っていたのは、アーティファクトの“首都”滞在を許可する通行証だった。
「それ……」
「“首都”の通行証ですわ! これで、ワタクシたちに敵意が無いことをわかっていただけたかしら?」
青年は動きを止めて、彼女の突き出された手元をじっと見つめる。刹那の沈黙の後、青年は剣を下ろした。
「そうならそうと早く言ってくれよ〜、危うく同士討ちになっちゃうとこだっただろ!? ってか、アーティファクト用の通行証なんてよく取れたなぁ、今の御時世で」
「いや……言おうとしましたよね?」
青年の言葉にローレンスが突っ込む。しかめっ面をするアザレアの後ろで、ゲンジが背中に“本体”を収めた。
「それで、俺たちは入れてもらえるのか?」
「“首都”になんの用か知らないけど、通行証持ってる客人の通用口は向こう側にあるんだ」
「あら、そうなんですの? ローレンス、貴方……」
「いや、知らないよそんなこと――“首都”のネットワークは確認してから来たんだが」
アザレアは胡乱な表情で案内役をしていたローレンスを見つめるが、彼はただ首を横に振る。その会話に青年が気まずげに首筋を掻いた。
「あー……まあ確かに? 来客用のハッチは最近できたやつなんだけど……」
「「「……」」」
「いや……悪かったって、いきなり襲いかかって。“兵器”用の通用口の前をウロウロしてたから、不審者だと思ったんだって」
弁解するように両手を振る青年に、アザレアはため息をつく。
「ワタクシたち、“兵器”になるために“首都”に来たんですの」
「え、マジで? 物好きだな……」
「うるさいですわね。加勢しに来たんですから、さっさと中に入れてくださらない?」
アザレアは唇をツンと尖らせる。青年は、しばらく検分するように三人を眺めていたが――ふっと息を吐き出すと後ろを向いた。
「来客用通用口はこっち。特別に案内してやるから」
「あら、ありがとうですわ」
フフン、と笑うアザレアに青年は鼻を鳴らす。ローレンスとゲンジは顔を見合わせて微笑んだ。
「俺はアキラ――『Ⅰ型』“兵器”だ。あんたは?」
「アザレアですわ。アスピトロ製の自動演奏機械ですの」
「オルゴール――『Ⅱ型』ってこと? あんたますます物好きだな」
「さっさと案内なさいな」
「なんで上から目線なんだよ……」
靴音が四つ、並んで歩く。始まりにふさわしいよく晴れた空が広がっている。
春の風は強く――しかしどこか甘くて優しい香りがした。
<><><>
[Errorを検出]
[Errorcode7620:記録の再生ができません]
[Unknown]
[Unknown]
[Unknown]
[Unknown]
「君はきっと、すべてを忘れてしまう」
「でもいいよ」
「僕は――君を」
[Unknown]
[Unknown]
[Unknown]
[Unknown]
[Unknown]
[Unknown]
[Unknown]
[Unknown]
――ああ、結局……
「また、こうなるんだな」
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この記録は、人間を守るためだけに戦い続けることを誓った、とある機械たちの記憶である。
以上でPrequel<B>,『セピアの過去』完結になります!
アザレアとアキラの内部データを中心に、第二次機械戦争と“災厄”について書いてきました。特にアキラの記憶に関しては、会話文主体で書くという初めての試みだったのですが……いかがだったでしょうか?ここまでお読みいただいた皆様、本当にありがとうございます。引き続き応援よろしくお願いします!
それではまた次回お会いしましょう!