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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Prequel<B>,『セピアの過去』
352/476

352,

「きゃあっ!?」


「っ、」


「なんだぁ? テメーは……」


 ゲンジとローレンスがアザレアを庇って“本体”を構える。彼らからほんの数歩分離れた場所に――たった今三人を襲った人物が立っていた。


「それはこっちのセリフだ。お前ら、アーティファクトだろ」


 荒野に吹く春風が、そのオレンジ色の長髪を巻き上げる。手に持った長剣がいやに眩しい。


「俺は“兵器”だ。悪いが、“首都”に近づくアーティファクトは全員ぶっ殺すことに決めている」


「“兵器”って――おい、ちょっと待て……」


 ゲンジは慌てて武器を置いて敵意がないことを示そうとするが――相手はあっという間に間合いを詰めると彼に切りかかった。


「っ!」


「――よく受けたな」


 金色の相貌が冷たくゲンジを見据えている。横からローレンスが放った銃弾を軽やかに避けて、彼は地面に降り立つと、すぐにまた攻撃を繰り出す。敵意があるかどうかはもはや関係なかった。


「おい……話を、聞け!」


「話もクソもあるか。所詮はアーティファクトだろうが」


 全く聞く耳を持たないアーティファクトの青年に、ゲンジは額に脂汗を浮かべる。ローレンスも迂闊に攻撃が出来ないことを理解しているから動けない。

 そんな中――


「ちょっと、ストップ!」


 バッ! といきなりゲンジと青年の間に割って入ったのは、他でもないアザレアだった。


「お嬢! あぶねえ、」


「これを見なさい」


 ゲンジが叫ぶがアザレアは彼を振り返りもしない。彼女が手に持っていたのは、アーティファクトの“首都”滞在を許可する通行証だった。


「それ……」


「“首都”の通行証ですわ! これで、ワタクシたちに敵意が無いことをわかっていただけたかしら?」


 青年は動きを止めて、彼女の突き出された手元をじっと見つめる。刹那の沈黙の後、青年は剣を下ろした。


「そうならそうと早く言ってくれよ〜、危うく同士討ちになっちゃうとこだっただろ!? ってか、アーティファクト用の通行証なんてよく取れたなぁ、今の御時世で」


「いや……言おうとしましたよね?」


 青年の言葉にローレンスが突っ込む。しかめっ面をするアザレアの後ろで、ゲンジが背中に“本体”を収めた。


「それで、俺たちは入れてもらえるのか?」


「“首都”になんの用か知らないけど、通行証持ってる客人の通用口は向こう側にあるんだ」


「あら、そうなんですの? ローレンス、貴方……」


「いや、知らないよそんなこと――“首都”のネットワークは確認してから来たんだが」


 アザレアは胡乱な表情で案内役をしていたローレンスを見つめるが、彼はただ首を横に振る。その会話に青年が気まずげに首筋を掻いた。


「あー……まあ確かに? 来客用のハッチは最近できたやつなんだけど……」


「「「……」」」


「いや……悪かったって、いきなり襲いかかって。“兵器”用の通用口の前をウロウロしてたから、不審者だと思ったんだって」


 弁解するように両手を振る青年に、アザレアはため息をつく。


「ワタクシたち、“兵器”になるために“首都”に来たんですの」


「え、マジで? 物好きだな……」


「うるさいですわね。加勢しに来たんですから、さっさと中に入れてくださらない?」


 アザレアは唇をツンと尖らせる。青年は、しばらく検分するように三人を眺めていたが――ふっと息を吐き出すと後ろを向いた。


「来客用通用口はこっち。特別に案内してやるから」


「あら、ありがとうですわ」


 フフン、と笑うアザレアに青年は鼻を鳴らす。ローレンスとゲンジは顔を見合わせて微笑んだ。


「俺はアキラ――『Ⅰ型』“兵器”だ。あんたは?」


「アザレアですわ。アスピトロ製の自動演奏機械(オルゴール)ですの」


「オルゴール――『Ⅱ型』ってこと? あんたますます物好きだな」


「さっさと案内なさいな」


「なんで上から目線なんだよ……」


 靴音が四つ、並んで歩く。始まりにふさわしいよく晴れた空が広がっている。

 春の風は強く――しかしどこか甘くて優しい香りがした。


<><><>


[Errorを検出]

[Errorcode7620:記録の再生ができません]

[Unknown]

[Unknown]

[Unknown]

[Unknown]


「君はきっと、すべてを忘れてしまう」

「でもいいよ」

「僕は――君を」


[Unknown]

[Unknown]

[Unknown]

[Unknown]

[Unknown]

[Unknown]

[Unknown]

[Unknown]


 ――ああ、結局……

「また、こうなるんだな」


<><><>


 この記録は、人間を守るためだけに戦い続けることを誓った、とある機械たちの記憶である。

以上でPrequel<B>,『セピアの過去』完結になります!

アザレアとアキラの内部データを中心に、第二次機械戦争と“災厄”について書いてきました。特にアキラの記憶に関しては、会話文主体で書くという初めての試みだったのですが……いかがだったでしょうか?ここまでお読みいただいた皆様、本当にありがとうございます。引き続き応援よろしくお願いします!

それではまた次回お会いしましょう!

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