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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Prequel<B>,『セピアの過去』
351/476

351,

<α0211>戦線歴2104年3月4日


「ふ〜ん……? ここが“首都”ですの」


 荒野の春。少し冷たい風が肌を撫でていく。アザレアは足を止めて目の前に佇む高い壁を見上げた。


「こーんな辺鄙なところに、世界最大の都市があるなんて思いませんでしたわ」


「アザレア、入口はこっちだ」


 ローレンスが手招きをする。彼女が駆け寄ってくるのを見て、彼の隣に立つ人物が苦笑した。


「辺鄙なとこって言うけどなぁ、旧王城跡地も大概だったぜ? お嬢よ」


「あれは……仕方のないことでしょう? というか、その“お嬢”って呼び方はなんなのです?」


 むっと頬を膨らせるアザレアに、その岩のような大男は笑う。豪快なその声に、足元をうろついていた小鳥が二、三匹飛び去っていった。


「ガーッハッハッハ! コレはあれだ……お嬢はお嬢さ!」


「はぁ……特に理由もなにもないのなら、素直にそう言ったほうがいいぞ? ゲンジ」


 呆れたようなローレンスのため息に、しかしゲンジはただニコニコと笑っている。そんな彼の横顔を一瞥してローレンスはまた前を向いた。


「早く行こう。他のアーティファクトに見つかりでもしたら面倒だ」


 彼の言葉に三人はまた歩き始める。アザレアはまた壁を眺めて、眩しげに目を細めた。


「――“兵器”、ね」



 アーティファクトの暴走から三十年と少し。“災厄”と名付けられたたった数日間の出来事は、人間の生活を大きく変えてしまった。

 街を囲う大きな(ボーダー)も、荒れ果てたかつての汚染地域を往く黒塗りの装甲車も。全てはアーティファクトからの襲撃を防ぐための、人間のできる精一杯の自衛。かつての《アスピトロ公国》――今は“首都”なぞと呼ばれる世界最大の都市でも、それは例外ではない。


「将軍?」


「んん? なんだお嬢」


 南方最強との呼び声も高かった、《帝州》装甲機大将軍も――今やその獰猛さは鳴りを潜め、ただのアーティファクトとしてアザレアの隣に立っている。それでも“将軍”と呼びたくなってしまうのは、やはり旧型機である彼の貫禄から来るのであろう。


「どうして将軍は、ワタクシを誘ってくれたのです? だって、ワタクシたちが参加しようとしているその――“兵器”っていうのは、要は“首都”を守るアーティファクトの軍隊なのでしょう?」


 ワタクシは『Ⅱ型』アーティファクトですのよ? と首を傾げるアザレアに、ゲンジは微笑む。


「お嬢はエレブシナで人間のために働いていた。それを、今になって人間たちは追い出したわけだ」


 ――たしかについ先日、エレブシナ国内のアーティファクトの保有数に制限をかける法律が定められた。その保有数上限の外に出てしまったアーティファクトが、要はアザレアたちだったのだ。


「追い出した……まあ、そうですわね。でも、ワタクシはていしゅ……春苑にでも行こうと思っていたのですわ。余生を常春の国でのんびり暮らすのもいいと思っていたのですの。それを、貴方とローレンスが強引に引っ張り出して……」


「僕を一緒にしないでくれ」


 辟易と首を振るローレンスを無視して、アザレアはゲンジを睨む。しかし、彼はまた笑うだけだった。


「ガーッハッハッハ! そんな事を言って、お嬢は腐らずに人間のために働くすべを探していた。なら、お嬢が“兵器”に入るのは必然のことだろうが」


「……脳筋ねぇ」


 もはや呆れる気力もなく、アザレアはゲンジを見上げる。水色の目がどこか優しい色をしていることに気づいて、アザレアは思わず視線を下げた。


「なあ、お嬢よ……お嬢はまだ、居場所が欲しいんだろう?」


 ――ああ、見透かされている


 ゲンジが大将軍と呼ばれていたのにはそれなりの理由がある。強いだけではないのが、彼の本当の強さであり――


「お嬢ならどうにでもならあ。この俺が言っているんだからな、間違っているはずがない! ガーッハッハッハ」


「……本当に馬鹿」


 アザレアが彼を信用している大きな理由でもあった。



<><><>



「ちゃんと通行証は持っているな?」


「おうよ」


「勿論ですわ」


 二人の声にローレンスは高い壁にぽっかりと開いた通用口(ハッチ)に足を向ける。

 ――その瞬間だった

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