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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Chapter3,『正義の基準』
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34,

「――随分と、賑やかだな」


 イツキの呟きに、隣に立っていたアキラが窓の外を覗き込む。


 四月も、もう終わりが近づいている。ますます暖かくなる“首都”の街並みを、色とりどりの小さな旗が彩っているのが、境界線基地ボーダー・ベースの中からでも見えた。


「旅商隊が来る時期だからな。もうそろそろ、第一隊が来る頃なんじゃないか?」


「……キャラバンか。懐かしいな」


 旅商隊の文化そのものは、“大戦”勃発前からあるものだ。――もっとも、当時はここまでお祭り騒ぎになるほどの重要性は、持ち合わせていなかったが。


「昔よりもずっと賑やかだなぁ。まあ、都市と都市の間の距離がだいぶできたから、キャラバンの重要度が増したもんな」


 アキラはそう言って、陽の光に眩しげに目を細める。と、


「――だから、外に出るならちゃんと護衛をつけてくださいって!」


 一番近くにある階段の方から、大声が聞こえた。


「ローレンだ。珍しいな」


 アキラは不思議そうに呟くと、声のした方に歩き出す。イツキもなんとなくその後に続いた。



「貴女は、“首都”唯一の修繕師リペアラーなんですよ?この都市の要人なんです。何かあったらどうするんですか!?」


「……私みたいな小娘が修繕師をやっていると知っている人間は、そうそういないので平気です。――何より、“兵器”を個人的な護衛のためには使えません」


 階段の踊り場で言い合いをしているのは、天音とローレンスだった。その横には、困ったように頬を掻くゲンジも居る。


「いやぁ……。しかしなぁ、先生よ。本当に何かあったらなぁ、」


「今の時期、みんな忙しいじゃないですか。キャラバンが店を出す壁外地区の警護は、この時期最大の“兵器”の職務です。――たかが私の買い物に、付き合わせる訳にはいきません」


 きっぱりと言い張る天音に、ゲンジはタジタジと口ごもる。しかしローレンスは、そんな天音にも臆すること無く声を荒らげる。


「先生の身になにかあるほうが、僕たちには大変なことなんです。いい加減、言うことを聞いてください!」


「いいえ!警護は必要ありませんっ」



「――珍しいな。先生があんなにローレンの言うことを否定するなんて……」


 階段の上の方から、今までのやり取りを眺めていたアキラが、不思議そうに呟く。



「……とにかく、私は大丈夫ですので気にしないでください。何かあれば、無線で呼んでくれれば結構ですから」


 大きな声にたじろいだローレンスに早口でそう言うと、天音は階段をかけ下っていく。


「先生!」


 ゲンジが階段を見下ろして叫ぶが、そこにはもう既に天音の姿は無い。


「まいったなぁ……」


 棒立ちになったローレンスの横で、ゲンジはため息をつく。

 そんな踊り場の様子を見て、アキラは苦笑した。


「――わあ。あれ、どうすんだろ。なあ、イツキ……」


 しかし


「え?……イツキ?」


 アキラが、キョロキョロと辺りを見回す。

 イツキの姿はどこにもなかった。

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