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「――随分と、賑やかだな」
イツキの呟きに、隣に立っていたアキラが窓の外を覗き込む。
四月も、もう終わりが近づいている。ますます暖かくなる“首都”の街並みを、色とりどりの小さな旗が彩っているのが、境界線基地の中からでも見えた。
「旅商隊が来る時期だからな。もうそろそろ、第一隊が来る頃なんじゃないか?」
「……キャラバンか。懐かしいな」
旅商隊の文化そのものは、“大戦”勃発前からあるものだ。――もっとも、当時はここまでお祭り騒ぎになるほどの重要性は、持ち合わせていなかったが。
「昔よりもずっと賑やかだなぁ。まあ、都市と都市の間の距離がだいぶできたから、キャラバンの重要度が増したもんな」
アキラはそう言って、陽の光に眩しげに目を細める。と、
「――だから、外に出るならちゃんと護衛をつけてくださいって!」
一番近くにある階段の方から、大声が聞こえた。
「ローレンだ。珍しいな」
アキラは不思議そうに呟くと、声のした方に歩き出す。イツキもなんとなくその後に続いた。
「貴女は、“首都”唯一の修繕師なんですよ?この都市の要人なんです。何かあったらどうするんですか!?」
「……私みたいな小娘が修繕師をやっていると知っている人間は、そうそういないので平気です。――何より、“兵器”を個人的な護衛のためには使えません」
階段の踊り場で言い合いをしているのは、天音とローレンスだった。その横には、困ったように頬を掻くゲンジも居る。
「いやぁ……。しかしなぁ、先生よ。本当に何かあったらなぁ、」
「今の時期、みんな忙しいじゃないですか。キャラバンが店を出す壁外地区の警護は、この時期最大の“兵器”の職務です。――たかが私の買い物に、付き合わせる訳にはいきません」
きっぱりと言い張る天音に、ゲンジはタジタジと口ごもる。しかしローレンスは、そんな天音にも臆すること無く声を荒らげる。
「先生の身になにかあるほうが、僕たちには大変なことなんです。いい加減、言うことを聞いてください!」
「いいえ!警護は必要ありませんっ」
「――珍しいな。先生があんなにローレンの言うことを否定するなんて……」
階段の上の方から、今までのやり取りを眺めていたアキラが、不思議そうに呟く。
「……とにかく、私は大丈夫ですので気にしないでください。何かあれば、無線で呼んでくれれば結構ですから」
大きな声にたじろいだローレンスに早口でそう言うと、天音は階段をかけ下っていく。
「先生!」
ゲンジが階段を見下ろして叫ぶが、そこにはもう既に天音の姿は無い。
「まいったなぁ……」
棒立ちになったローレンスの横で、ゲンジはため息をつく。
そんな踊り場の様子を見て、アキラは苦笑した。
「――わあ。あれ、どうすんだろ。なあ、イツキ……」
しかし
「え?……イツキ?」
アキラが、キョロキョロと辺りを見回す。
イツキの姿はどこにもなかった。