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2019/3/21 <log>
「アキにい!」
「っ!?」
《北方・南方境界線・B−203区域》
「シオン……? びっくりした、驚かさないでくれ」
「ご、ごめんなさい」
「いや、そこまで萎縮しなくてもいいけど」
「アキにいの姿が見えたから、嬉しくなっちゃって」
「……」
「アキにい?」
「なんで、お前はそう……」
「?」
「いや、なんでもない。お前もここの見張りに?」
「別に? 暇だったから来ただけ。アキにいの居場所を検索したら、ここだって出たから」
「……なんか、だんだん制作者に似てきたな、お前」
「え、本当!? 嬉しい」
「褒めてねーよ。褒め言葉ではないからな」
「?」
「はあ……もういいや。危ないから下がっていろ」
「あ、あたしも戦えるもん。というか、なんでアキにいは一人で戦場に出てるのさ? そのほうが危ないよ」
「いつも一緒に来てるやつが、今日はたまたま休みなんだ。詰め所に行ったら、今日やつは一日非番だって言われてさ――先に言っておいてくれてもいいのにな、水くさい」
「……むう」
「なんでふくれてるんだよ」
「だって、その人とはいつも一緒に戦場に行くのに、あたしは連れて行ってもらえたことないから」
「それは、だって」
「あたしはアキにいのなのに」
「……」
「ズルい、その人ばっかり」
「……『大切にする』って、言っちまったから」
「へ?」
「マスターに、お前のことを大切にしてほしいって言われたから――俺はその通りにしているだけだ」
「……」
「いくら強くても俺のために造られたアーティファクトでも、危ないものは危ないんだよ。お前のこと怪我させちまったら、なんというか……負けな気がするから」
「負けって……あたしは、『Ⅰ型』のアーティファクトだよ? 危ないのは承知で、それでもアキにいについてきたんだよ?」
「わかってる。わかってるさ」
「じゃあ、もっとあたしを連れて戦場に出て」
「それもいいんだけどさ……あー」
「なに?」
「いや」
「ねえ、なんなのさ?」
「だって……こんなこと言ったら、お前ぜーったい怒るだろ」
「怒らないよ! アキにいの言葉に怒るわけないじゃんか。ねえ、あたしに何か不満があるの? それともなにか……とにかく、言ってくれなきゃわかんないよ」
「……」
「……」
「正直、イツキのほうが気心知れてるから、あいつと一緒のほうが戦いやすい、から」
「!?」
「もーほらー、怒ってんじゃん」
「おこっ……怒って、な……」
「いいよ、わかってる。酷いな俺は」
「そんなわけない! ただ、ちょっと……嫉妬? しただけ」
「……」
「確かに、あたしよりもその人のほうがきっと強いんだろうし、よりアキにいと一緒にいたんだろうし――勝ち目がないのはわかってるよ」
「シオン」
「で、でも。あたしはアキにいの戦闘のバックアップに最適に造られたアーティファクトだよ? だから……あたしは、アキにいと組んで戦えたら強いよ?」
「……」
「ほら、あたし遠距離武器だよ? アキにいの手の届かないとこまで敵を攻撃できるし……それにほら、ね? あたし……えっと、役に立つよ!?」
「ふっ……あははっ」
「笑わないでっ! まじめなの、あたし本当に、」
「くっ……はは、わかってる。お前は……」
「?」
「お前は、俺の“妹”だもんな」
「……!?」
「ああ、他の兄弟たちには内緒な? バレるとまたうるさいから」
「……そー、だよ。あたしはアキにいの妹だもん」
「そうだな」
「アキにいだけの、妹だもん」
「ああ」
「その、イツキとかいう人よりも! ずっと……ずーっと、アキにいのことが好きだもん!」
「それはそうだろうな。俺が一方的にイツキのこと友達扱いしてるだけだから」
「!? 違う! あたし妹だから! 友達より……なんかスゴイから……」
「あはははっ」
「ねえ笑わないで!」
「はいはい」
<備考>
ヤキモチ焼いているのが可愛いだなんて……俺もマスターに似てきたのかもしれない。だったら本当に最悪だ。
まさか“妹”と公言してしまう日が来るなんて、夢にも思っていなかった。――でも、案外悪くないかもしれない




