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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Prequel<B>,『セピアの過去』
334/476

334,

<α0211>戦線歴2015年12月5日


 雪が勢いよく降っているのが、窓越しにもはっきりと見えた。部屋の奥から居間に戻ると、一人では無いはずなのにやたらと静けさが身にしみる。

 ――この戦争が始まってから、もう十五年になる冬の夜だった。


「ヨツ……ハ」


 風呂が沸いたことを告げようとしたアザレアの言葉は、途中で尻窄みになる。部屋の隅に置いてある機械ストーブの前にギルバートが座っていた。


「……」


「……あ」


 アザレアが近づいていくとギルバートは振り返る。彼の膝に頭を預けてぐっすりと寝入っているヨツハの姿が、その角度からやっと視認できた。


「――イチャつくならよそでやってくれないかしら」


「この雪の中、俺たちを追い出すつもりかい? 勘弁してくれ」


 苦笑しながらヨツハの髪を撫でる彼は、つい三日前に戦場から戻ってきたばかりだった。優しい彼の手付きを眺めながらアザレアはその隣に腰を下ろす。


「“恋人”にもすっかり慣れましたわね」


「そうだね。――こうやって考えてみると、機械にも案外できるもんだな」


 愛しげに細められる目が暖かく揺れる。アザレアは密やかにため息をついた。


「もはや夫婦ですわね。初々しさが薄れてきましたわ」


「そりゃ、付き合い始めて二年ちょいになるんでね。ヨツハのことが大切なのは変わらないけど」


 優しい声色。弛緩した空気。ストーブのぬくさが三人を包みこんでいた。


「……さて、そろそろヨツハに起きてもらいたいのですけれど? お風呂が入ったんですの。お湯が冷めないうちにさっさと入ってきて欲しいのですわ」


「なるほど――ほら、ヨツハおはよ」


 ゆすゆすと彼女の肩を優しく押すギルバート。ヨツハは小さく呻いて、モゾモゾと丸まった。


「……困ったな。起きて、ヨツハ」


 揺すられても呻くだけで一向に目を覚まさないヨツハに手を焼くギルバート。その様子を眺めながらアザレアが立ち上がった時――不意に、プレハブの扉を叩く音が聞こえた。


「?」


「……誰だ? こんな時間に」


 ギルバートの手が止まり、ノックの音に気がついたのかヨツハもぼんやりと頭をもたげる。アザレアはドアに歩み寄った。


「どなたですか?」


『《SMDO(南方軍事開発機構)》より参りました。<β1327>――ギルバート君がここにいるって聞いて来たんですけど……』


 ――《SMDO》って、アーティファクト研究の……


 アザレアは薄く扉を開ける。いよいよ吹雪いてきた雪景色を背景に、そこに立っていたのは二人の人影だった。


「ギルバートになんの用ですの? 確かに、彼はここにいますけれど……」


「あ、不審者とかじゃないんです、ほんとに」


 慌てたように手をふる手前の人影は、どうやら女のようだった。後ろに立っている背の高い人影は、ただ佇んでいる。女は外套のフードを脱いだ。



「ギルバート君にお話……というかご報告があって来ました。《SMDO》の<兵器開発研究室>所属研究員、茨木コハクといいます。こっちは『Ⅰ型』アーティファクトのローレンス。――入れてもらってもいいですか?」



<><><>



「――そう、ですか……制作者(マスター)が」


 ダイニングテーブルは、全員が座るには小さすぎた。ギルバートとコハク、彼女の相棒だというアーティファクトのローレンスをテーブルに座らせて、アザレアとヨツハは部屋の奥のソファーを寄せて座っている。

 ギルバートの言葉にコハクはうなずいた。


「祖父の造ったアーティファクトの皆さんに、報告して回っているんです。――脳梗塞でした」


 傍から聞くに、どうやらギルバートのマスターが亡くなったらしく、コハクはその孫に当たる人物らしい。

 アーティファクトに対して随分と律儀な人間だと、アザレアはなんとなく不思議に思った。

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